違和感
『館の主が存在する事は分かったが、この館に本当にいるのかは疑問だな。挨拶も無ければ、一週間分の魔導具の魔力を入れてるのもそうだ。零が数度しか会った事がないのであれば、何処にいるのかも分からないのも当然か』
館の主の居場所。この館に隠れているのであれば、一番の容疑者候補になる。自身の領域に入れているのだから、この中にいる誰よりも容易く人を殺せるだろう。
カイトは死神の言葉に地図を見てみるが、どこにも主の部屋は記されてはいない。メアリ達は発見出来なかったようだ。
もしくは、そこが主の部屋だと分からなかったか。
零も数ヶ月同じ館に暮らしていながら、主の部屋を知らないのはおかしい。隠し部屋があると踏んだ方がいいだろう。地下も怪しいところだ。
『取り敢えずは探索の続きだな。零も料理の準備で遮る事はないはずだ』
カイトが従者の部屋に入る直前、零に調理の協力を頼まれた。調べるとすれば、まずは従者の部屋だろう。
「あっ……」
彼の目に映ったのはアルカイズの白従者である三。従者の部屋から彼女が出ていく姿だった。
彼女もカイトの姿に気付き、視線がぶつかる。
三は彼に会釈し、別の場所へ。赤従者と違い、無視しないだけマシか。
『先を越されたな。彼女が部屋にいたのは別段おかしくはないが』
カイトやキスの従者同様、館の探索をアルカイズに命令されたのだろう。
休めと指示を受けていたとすれば、従者の部屋に残っているはず。部屋の外に出たのはそういう事だ。
『彼女が確認したのなら、中は安全と取るべきか。見回れるとしても時間的に一、二箇所だと思うぞ』
三が従者の部屋を確認して、無事に外に出てきた時点で、中は安全である可能性は高い。
だが、カイトは従者の部屋を調べる事を選んだ。
従者の部屋に地下への階段があるかどうか。メアリ達が従者の部屋を調べる事はないのではないか? なんせ、従者自身が調べれば済む話だからだ。
であれば、魔法使いにとって、死角になる可能性がある。
『なるほどな。魔法使いにとっては盲点になるか。だとしても、それを従者が見つけられるかどうか。メアリ達が入らなければ、意味はないが』
「怪しいところは、事前にチェックはしておきべきだと思います。そこは三も触れはしないかもですし」
従者の部屋は安全だと言われても、見るからに怪しい箇所には触れられない。
そのせいで主の行動に支障をきたすのは以ての外だからだ。
カイトは従者の部屋を開けた。
『メアリ達に用意された部屋とは違って、物は置いているな。だが……』
カイトの目を通して、死神も従者の部屋を見る。
メアリ達の部屋は何もなかったが、ここにはベッドがあり、クローゼットも用意されている。それも八つずつ。
零がこの館に来るまで、従者が八人はいたのだろう。しかも、それぞれにベッドやクローゼットの色が違っている。
誰の場所なのか、分かりやすくするためだったのか? それとも別の意味があるのか?
それも気になるところだが、カイトは別にもう一つ、部屋に違和感が。それを死神も感じ取ったのだろう。