死神探偵事務所
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「ここは……書庫? けど、何で……僕は死んだはず……それに」
カイトは二重、三重に驚いた。
彼は自身が死んだ事を知っている。
病死だ。魔法では怪我だけでなく、病気も治療出来ない。回復する魔法自体が存在しなかった。
それが見知らぬ場所、多くの本に囲まれた部屋に彼の意識があり、体がある状態で存在している。
しかも、カイトの姿は若返った状態になっていた。主が生きていた当時の姿、全盛期の彼の姿が、近くにある鏡に映し出されていた。
「ようこそ。ここは謎を持つ迷える魂だけが辿り着ける場所。死神探偵事務所……死神図書館でも構わないか?」
この部屋の奥。先程まで何もなかった場所に、揺り籠の椅子に座った女性が本を読んだ状態で現れた。
「死神……何故、僕をこの場所に?」
カイトは驚かない。彼女から異様な雰囲気を感じ取れたのもあるが、彼自身がすでに亡くなっている事を知っている。普通の人間でないと思うのは当然だろう。
「そうだな。私の存在に驚く者もいるが……君は違うようだ。世界によって、人間の変わるのも面白いところだが」
カイトが生きていたのは魔法が存在する世界。彼女の異様な雰囲気、力を感じ取れる場所であった事を意味する。
死神という言葉も、関連する物があるからこそ、すぐに頭で理解する事が出来たのかもしれない。
「君の質問に対する答えは言ってる。私がいる場所に来れるのは、謎を持つ魂だけだとね」
彼女は読んでいる本を閉じ、椅子から立ち上がる。そして、彼女はカイトの方へ歩み寄る。
彼も死神が近付く事によって、彼女の姿が鮮明になっていく。
百七十はある身長に、背中に届く程に長い紫色の髪。緑色の瞳と綺麗な顔立ち。黒色のマントを羽織る姿はカイトが知る魔法使い……主の姿に似ていた。
だからこそ、カイトは見惚れたのか、その場から後退する事はなかった……出来なかったのかもしれない。
そして、死神の手はカイトの頭を掴んだ……いや、違う。頭の中から一冊の本を抜き出した。
「それは?」
「これは君の人生を記した本だ。名前はカイト。没年二十。魔法使いであるメアリ=アルザスの従者か。そして、十五の時に主が行方不明になっている。その記憶に間違いないはずだ」
彼女はカイトの頭の中から取り出した記憶の本の一部を読み上げた。その事に彼は驚いた表情を見せるのも一瞬で、素直に答えていく。
「いえ……少し訂正を。行方不明ではなく、僕は殺されたと思ってます。そうでなければ……」
「分かっている。この本には君の人生が記されていると言っただろ? 行方不明と言葉にしたのはわざとだ。君の世界ではそうなっているからな。未解決事件。主であるメアリ=アルザスは誰かに殺され、その犯人を君は見つけられずに亡くなってしまった」
「……はい……その通りです。主が亡くなってから、僕の人生の全てを捧げても、犯人が誰かも分からず。あの時、僕が主と同行出来なかったのが……救えなくても、一度は盾になれたはず。一緒に死ねたのに」
「そう……君は体調を崩し、現場である場所に行けずにいた。そこはとある魔法使いの館。魔法使いは生涯を終える前に、所持している魔法を別の魔法使いに継承する。その候補の一人にメアリ=アルザスは選ばれた。そして、他に三人の魔法使いが候補も」
「ですが、彼等は犯人ではなかったはずです。主と同じく行方不明になってます。多くの従者達は主の死を感じ取ったと言ってました。それに……継承権争い、魔法使いの勝負で主が負けたのであれば、僕も納得出来るのですが」
カイトも魔法使いでの勝負の結果なら納得していた。だが、魔法使い全員が行方不明。それだけでなく、主催者である魔法使いも消えていた。その存在が犯人であると過言ではないのかもしれない。