嫌味
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「キス様!? わざわざこちらに足を運ばなくても、呼んでくだされば、私がそちらに向かいましたのに」
キス達は従者の部屋を調べるのを終えて、七を呼びに調理場へ。
「私が調理場を見たかっただけよ。ここにも謎があるかもしれないからね」
七はカイトだけでなく、キスやメアリまで調理場の中に入ってきた事に驚いている。
彼にしてみれば、カイトに呼びに行かせる事や、食堂からの声掛けがあればと思っているのだろう。
だが、キスやメアリからすれば、七の目から調理場を、零を見た事で覗く価値があると判断したのだ。
それに彼の反応を見ると、自身に魔法が掛かっていたとは感じてなかったようだ。
「こんな時間まで彼を貸して頂き、ありがとうございます。そのお陰で準備が捗りましたし、夕食の準備も取り掛かれました」
零はキスに頭を下げる。寸胴に鳥が入ったスープや野菜が煮込まれた物等、色々な物が用意されている。それは昼食だけでなく、夕食も今の内に仕込みを施しているらしい。
「……ふん。アンタのために時間を要したわけじゃないわ」
キスは少し煩わしい顔を零に向ける。彼女の言葉が嫌味に取れる面もあるからだろう。
ほんの数分程度で従者の部屋の確認が終わるはずが、気付けば三十分の時間が過ぎていた。
三が館に戻ってくるまで一時間半。思った以上に時間の経過が早いのだ。
まだ音楽、ピアノ室の謎解きやメアリの持つ鍵で開くはずの書斎に行く事も出来ていない。
余計とまでは言わないが、三が戻るまでに謎解きの一つも解き明かせないペースとなってしまっている。
キスからすれば、零がそれを咎めているとも取れてしまう。
「従者の部屋のように時間は掛けません。見回る程度で済ませますから」
メアリは零の仕事の邪魔になると、頭を下げるものの、調べる事は止めるつもりはない。
「いえ……大丈夫ですよ。七と壱も何度か調理場を見ているはずなので」
零もメアリ達が調理場を調べるのを止めなかった。魔法使いの命令に止める権利はない。あるとすれば、主からの指示のみ。
それを言い訳にして零が断るのであれば、怪しさが増す。それは彼女自身が分かっているはず。
零がカイトではなく、七を手伝いに選んだのも監視かどうかの確認だと予想している。
「そうよね」
キスは見回るどころか、ズカズカとゴミ捨て場の場所へ直行する。彼女は調理場の内装は分かっておらず、七に聞く時間もなかった。
そこに何があるのか分かっている動き。これを零が見る事で監視されていたと感じるのではないだろうか。
キスが彼女の反応を見るために選んだ行動なのだろう。
「そこに繋がっているのはゴミ捨て場です。中を確認するにしても、外に出ないと無理ですよ。裏口はないので、入口から遠回りしないと駄目なのが面倒臭いところですが……」
零はキスの行動になんら驚く事はなく、ゴミ捨て場の説明をする。
それは彼女自身の潔白を証明するためか、もしくは監視されているのが分かってたからこその冷静さなのか。




