素性
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「ありがとうございます。後はこれを煮るだけで、従者用の食事は完成しますので」
カイトが野菜をきり終えたところで、零の手伝いは終了。調理場にも時計があり、始めてから丁度三十分。従者にとって時間配分は重要であり、カイトも三十分以内に終わらせるつもりでいた。
零は主にメアリ達魔法使い用の料理を作っていた。魔法使いと従者が同じ料理を食べる事はなく、一緒に食事をする事もない。
魔法使いと従者が同じ料理を口にするとしても、他者の館の食事の毒見役としてだけだろう。メアリとカイトはそれに当て嵌まらないが。
『カイト達従者用の料理はカレーだな。同じ名前なのかは分からないが、どの世界にもあるぞ。手軽で人気の品だ。私も一度は食べてみたいが』
カイトが野菜を切った後、大きな寸胴鍋とスパイスが多数置かれていた。料理として、数日間同じ食べ物でも問題ない品である。
『それは兎も角としてだ。彼女の素性は分からなかったが、館の主との関係。他の従者達の事は聞き出せたな。とはいえ、大した情報ではなさそうだったが』
カイトは零の手伝いを終えて、調理場を後にする。頭の中で死神に返答時は時が止まっているわけだが、それでも警戒はしておくべき。
死神が時を止めてるとしても、タイミング悪く、口走った事を誰かに聞かれる可能性もある。しかも、カイト自身も動けないのもあり、その場から逃げる事も出来ない。
「……彼女が館の魔法使い……ゴールド=ゴールの最後の従者。本当の名前なのかも聞いていない」
食堂のテーブルを過ぎた辺りで、カイトは独り言のように呟く。
零が館の魔法使いの従者になったのも、ほんの数ヶ月前。
顔を合わせたのも指で数える程らしい。それも今回の継承権争いの進行役としての抜擢。
他の従者達は命約を解除して、自由にさせたらしい。零とは一度も会っていない。今では別の魔法使いの従者となっていると思われる。
魔法使いや先輩従者の指導がなく、零は操り人形のような従者になっていないのだろう。
加えて、彼女もカイトと同じ、主と命約を結んでいないらしい。
館の魔法使いは先がなく、命約を結ぶ程に危険な行為をしないためか。
短い期間と分かりながら、従者となったのは何故か。従者に拒否する権利はないのだから、その考えは意味がない。
『彼女が嘘を言っている感じではなかった。ここの主はメアリとは別で、特異な魔法使いなのかもしれないな。この出来事のためだけに零を従者にするのもそうだが、他の従者達を命約を解除して、辞めさせる意味があるのか?』
「僕はメアリ様の最後を看取りたかった。逆もそうだと思いたいですが」
普通の従者にそんな感情はないだろう。感情があれば、感謝よりも悔恨の方が強い程、酷い扱いを受けてる従者もいるに違いない。
死ぬ前に命約を解除するのは危険のはずだ。魔法使いが従者に殺られないとしても、多数に無勢。多くの従者を従えてる場合は、全員が襲い掛かれば、殺されてもおかしくない。
それがなく、この館の主はまだ生きているのだから。