足枷
「なるほど……そうなると、二つの可能性がありますね。零と三が共犯者である事と、三は緊張で意識を失いかけたのを、零がそれを後押しした……」
三が意識を失いかけたのは偶然で、それを利用した。
それに零が三に駆け寄る事で、七が眠った際に動くのはカイトになる。だからこそ、カイトを七の元に近寄らせるため、彼女は先に動かなければならなかった。
「七のベッドの匂いが強かったのは、キス様の従者である彼の方が優秀で、念入りにした? そこに僕を行かせないと駄目になって」
『そう取る事も出来るという話だ。確固たる証拠もない。魔力があるのは分かっても、魔導具自体は見当たらない。匂いは私達の判断に委ねているだけに過ぎない』
それはキスも分かっている。零を怪しみながら、何も出来ないのは証拠がないからだ。
ゴールド=ゴールの従者でもある事から、下手に手を出すのは継承にも影響を与えるだろう。
『それにある事が彼女達を疑う足枷となってもいるわけなんだが』
彼女達というのは零と三の事だろうが、二人に共通する部分があるだろうか。従者であるのはカイトや七も同じ。性別が関係するとも思えない。死神が言う足枷とかは何か。
『そろそろ切れるか。キスには残念な話になるのだが、匂いは均一だった。何処かが強い事はなかった』
死神はカイトの会話の時間が切れる頃だと、キスに質問された事に答える。
彼が匂いの判断をしているわけではなく、死神が確認しているからだ。答えるには死神の言葉を待つしかなかった。
「……強い匂いは感じませんでした。そこまでになると七も気付いていたかもしれません」
「確かにそうね。良い線ではあると思ったんだけど……七が眠った以上、零が眠らされたのも演技ではなくて、アンタの耐性が強いだけか」
「のようですね。キス様の従者である七と零は耐性は同じくらいな感じはしますし」
「メアリの話を聞いたら、魔力が体にある分、耐性が七達よりも強いのは納得出来るわ」
カイトの言葉によって、キスとメアリは零が演技をして、彼等を眠らせた可能性を否定した。
七と零は耐性は同等、それに三も加わるかもしれない。カイトだけが体に魔力を宿している事で、一つ上をいくのだろう。
その四人の力の差はキスだけでなく、メアリも同意見のようだ。
「……待ってください。七と零の耐性が同じだとすれば、二人共演技を……寝なかった可能性があるんじゃないですか?」
カイトだけが匂いを二回受けた事で眠ってしまっただけで、零と七は一回だけなのだから、起きていてもおかしくはないはず。
キスの従者だからと言って、彼も演技していた可能性をなしにするのは駄目でないのだろうか。
勿論、カイトが直接二人に言ったのではなく、頭の中で死神に疑問を投げてしまった形だ。




