違和感
「……ふん。好きになさい。協力関係もあるから、これ以上は言わないでおくわ。とはいえ、意見は言うわよ。そこは聞きたいのよね」
『キスもキスなりの考えがある以上、メアリだけを変えさせれば、不信感が出来るだけだ。ここが落とし所なのだろうな』
キスもメアリから命約の事を聞き、頑固な面を持ち合わせている事も察したのだろう。無理矢理、メアリの考えを変えさせず、注意するところで留めたようだ。
「はい。魔力が残っていたのは壱と七のベッド。三が倒れたベッドに魔力を感じ取る事は出来ませんでした」
「重要なのは、どうやって壱と七のベッドに魔導具を起動させたかでしょ。三が寝たふりをしたとしても、アイツが側に寄った以上、下手な行動は出来ないはずよ」
『やはり、そこになるな。魔導具は見当たらず、彼女が使う素振りもなかった。だが、カイトと七は確実に眠りについてしまった』
「ここで疑う事は幾つかあるわ。まずは一つ目。メアリも一度疑ったように、アンタが魔導具を使った。話的にアンタが七の倒れているのを見に行ったわけだからね」
これはメアリもカイトに尋ねた事だ。
「僕は使っていません。自分を眠らせて、どうするんですか。どうせなら、彼女の場所にも仕掛けるはずですよ」
「でしょうね。アンタ達の関係を見る限り、アンタがメアリに嘘を吐くとは到底思えないから。勿論、完全に信用してるわけでもないけど」
キスも疑いは持つべきだと言った手前、二人を完全に信用しているとは言えない。当然、彼女の本音ではあるだろう。
とはいえ、そこもキスは呆れた顔をして口に出している。
「二つ目。アンタは魔導具からの匂いを二度受けて、眠ったわけよね。耐性が強いのかもしれないけど、一度目と二度目に違和感はなかったの? 七のベッドの時は匂いが強かったとか」
「……違和感ですか?」
「魔力に関しては特に。七のベッドの方が後で使われたので、残ってる感じが僅かに強いとは思いましたが、そちらの可能性もありますね」
魔力の強さによって匂いの濃度の変化があったのか。
『キスはここでも彼女に疑いを持ってるようだな』
死神の言葉で、キスが従者の部屋で起きた出来事にも零が関与しているのでと疑っている事が分かる。
「零をですか? ですが、彼女も眠らされてますよ。僕と一緒に匂いを嗅いだはずで」
『君は耐性が強かったせいで、七がいた場所からの匂いで眠ってしまった。零もそうであった場合はどうだ? あの匂いの量で彼女自身、眠らない事は分かっていた。君だけを眠らせるつもりだったが、そうはならなかった』
零が眠ったのも演技だった可能性。彼女が側に寄ったのはカイトを眠らせるためだった。
近くに寄りすぎたせいで、魔導具を使うところを見落とした可能性もあるのではないか。
彼女が突如として、カイトの側に寄って驚かせたのも、そのためだったかもしれない。




