調理場
カイトは零の後を追い、食堂へと足を踏み入れた。
食堂の中央には十人掛けの長いテーブルが置かれていて、その上には大きなシャンデリが設置されている。
周囲には複数の絵画が飾られており、全て草木、花の絵となっている。
他には中央テーブルから四分割して、部屋の色合いが変わっている。壁が青、緑、赤、黄色となっているから、そう見えるのだろう。
そして、食堂から真っ直ぐ進んだ場所が調理室。壁が赤と青の間が、その入口のようだ。
『調理場も結構な広さがあるな。別の世界で見たような器具も置かれているぞ』
死神が見たのはコンロ。釜で火を着けるのではなく、コンロを使うらしい。それもガスを使用するのでなく、代わりに魔力を用いて火を発動させる。
水を使用するのも蛇口があり、それも魔力で生み出すようだ。
コンロも水道も魔導具であり、魔力を貯蔵するタンクみたいなのが置かれている。
その他にも魔導具を発動させるためのスイッチがあり、紋様も描かれている。それが発動するための呪文なのだろう。
魔導具は魔法使いでなくとも、魔力が貯蔵されていれば、従者でも使用出来るようになっているらしい。
カイトは調理場を見回してみたが、一度は使用した事がある物ばかりであり、怪しい魔導具は確認出来ない。
「魔導具を見た限り、使用するのに問題はなさそうですが……触れて危険な物はありますか?」
見た事があった物だとしても、魔法使いにとって、危険な魔導具にするのは容易い。だからこそ、魔法使いの住処では安易に物には触れてはならない。
「そこは大丈夫です。使い方を知っていれば、危険な物はありません。ですが、魔導具を使う際は、多めに魔力を使わないでください。一週間分ギリギリしか貯蔵されてなく、補充する事も出来ませんので。ここのタンクに魔力量のメーターがあるので、一メモリを越えないようにお願いします」
「……分かりました。そこは注意しておきます。全て同じタンクの魔力を使用するわけですね」
「そうです。壱はこちらの野菜を軽く水洗いしていただき、全部を同じ大きさに乱切りして貰えたら」
零が指差した方向に籠に入った野菜やキノコが置かれている。毒キノコ等は見当たらない。
カイトは早速、野菜を軽く水洗いを始める。蛇口を捻ると紋様が光り、水が流れ出る。魔力のメーターも使用時には点滅するようだ。
『魔力タンクには一週間分しかないのは、それ以上は館に滞在する事はないのだろうな』
結界に回せる魔力もないのだから、新たに魔力をタンクに補充するのも無理なのかもしれない。
彼女もメアリ達に魔力タンクの補充を仄めかす言葉もないのは、一週間で事が終わるのを知っているからではないか。