視線
「メアリ様……ありがとうございます。それでしたら、七をお借り出来ないでしょうか。彼の方が段取りを知ってますから」
零が選んだのは七。先程まで手伝っていたのたから、七を選ぶのは当然ではある。
「分かりました。キス様もそれで大丈夫ですか?」
「構わないわよ。コイツが選ぶのであれば、七だと思っていたから。七も分かってるわね」
キス的にはカイトより七の方が優秀だと思ってはいるのだろう。それだけでなく、零の監視を継続させるためでもある。
「……承知しました」
七はそう言いながら、零に厳しい視線を向ける。監視対象として、そういう目で見るのは間違ってない。だが、相手にバレる可能性もある。
最初に指示された時はそんな視線を向けてはいなかったのだが、彼女が七を選んだ事で、主の側にいられなくなった事への苛立ちからなのか。
零も七の視線に動じない。食事の準備中にも彼がそんな視線を向ける事があったのか。
カイトが三と共に二人を呼びに行った時もそんな感じはなかった。
零も七に監視されている事に気付き、それを確信したいため、カイトではなく、七を再度選んだ可能性も生まれてくる。
『……二人の態度が気になるな。零の言葉に対して、七は良く思ってない。仕事の事を考えれば、彼もそうなる事は分かっていたはずだ』
「確かに……そうですね。監視対象だとはいえ、あの視線を向けるのは」
七の視線も気付けば、元に戻っている。それについて、キスが彼を咎める事はなかった。
零と七は調理場へ。キスとメアリ、カイトは従者の部屋に向かう。
「この部屋の扉は開けたままにしておくわ。何か怪しいところがあれば、私に声を掛けなさい。魔力を探るのはメアリでも問題ないわよね。危険なところはないだろうし」
カイトが従者の部屋のドアを開ける。そういえば、三と七を追って、二階に行った時に鍵を掛けてはいなかった。
部屋の中は朝一と同じ。カイト達が慌てて二階へ向かった時の状態そのまま。
零は整理整頓する事で何かしらの証拠を消さないようにと、メアリ達が調べた後に片付ける事にしたのかもしれない。
とはいえ、一度は零も確認はしているはずだと、キスが安全だと思うのはそういう事だろう。
「……何か他に気になる事でもあるのですか?」
カイトとメアリは従者の部屋に足を踏み入れるのだが、キスは部屋の入口前に立ち止まり、食堂の方へ体を向けている。
「……七の様子が少しね。アイツの事で気になる事を見つけたのか。私と一緒に行動出来ないからと、ふてくされるような奴を連れて来たつもりはないわ」
キスも七が零を睨んでいた事に気付いていたようだ。そして、様子が少しおかしかった事も。それが分かるのも主従関係がきちんとしている証拠か。




