決定権
三も断る事はせず、零に渡された時計を受け取る。時計を所持していなかったのか。皆が見ている場で渡すのだから、怪しい物ではないと。
とはいえ、彼女もどんな時計なのかを確認はしている。鎖がついていて、蓋も付いているようだ。
カイトの目に見えているという事は、メアリ達にもどんな時計なのかを見せているとも考えられるが。
「それでは」
三は館の外に出て行く。直後、魔物に襲われる姿もなく、入口の扉が閉じられた。
「見送りも済みましたので、私は昼食の準備に戻ります。キス様達はどうするのですか? 七も連れて行くのですよね」
零はすぐに仕事に戻るようだが、準備が遅れているのか、七の手を借りたそうな口振りだ。
「それでしたら……キス様が七を貸したように、少しの間でしたら壱を」
調合室を調べている間、キスが七を零に貸していたように、次はメアリがカイトに零の手伝いを申し出る。
「却下よ。アンタも自覚しなさい……謎解きを優先しないと駄目なんだから」
メアリがカイトと命約を結べない以上、何をするにしても、カイトが側にいる方が安全なのだ。零の手伝いをするため、距離を取るのは以ての外。
キスが一瞬口籠ったのも、それを零に知られるわけにもいかなかったからだ。
『こちらとしては、零の行動を少し見ておきたいところではあるのだが。メアリの安全を考慮した事で、動きが制限されてしまう面もあるか』
メアリがキスと行動する以上、カイトが単独で動く事が難しくなったのは仕方がない。
「……はぁ。仕方ないわね。次はアンタの持つ鍵の部屋を見つけるか、ピアノ室の謎解きをするつもりだったけど、先に従者の部屋を調べるわ。その間、七をもう少し貸してあげるわよ」
朝の事件により、メアリは零の仕事の遅れを気にしているようで、ジッと見つめて、無言の圧力を掛けている。キスはそれに根負けしたようだ。
「それとも、コイツを向かわせた方が良い? メアリもそうだけど、アンタはどう思うわけ?」
従者の部屋はカイト達全員が眠らされたわけだが、危険な要素はなかった。
食堂との距離を考えて、カイトを向かわせても問題ないと判断したのか。
『従者の部屋に関しては、二人の見解を知りたいところだ。客室のように、隣の部屋から匂いを送る事は出来ない。匂いが残っていなくとも、魔導具が使用された事が分かるのか』
「そうですね。従者の部屋を調べるの同行したいところですが」
カイトの行動はメアリと零の解答による。勿論、優先されるのは魔法使いのメアリの方だ。
キスが一度は却下したものの、手伝いに向かわせるかどうか。
「私ではなく、彼女が決めて構いませんよ。協力を求めているのは零の方なので」
メアリは零に決定権を与えた。食事の手伝いであれば、カイトも初日に協力している。だが、途中からであれば、七の方が勝手が分かっているはずなのだ。




