怒声
「馬鹿なの!!」
廊下から部屋までキスの怒号が聴こえてきた。それによって、三の続きの言葉が止まってしまった。
メアリがキスに命約の事を話した結果だろう。
カイトと命約で繋がってないのであれば、自身の体に影響があるのは当然。
この先、魔法使いと従者のどちらが重要になるかは明白。メアリがカイトより先に死ねば、協力関係を結んだ意味もない。
早速ではあるが、メアリの無茶の行動を止める抑止力として、キスは動いてくれたのではないだろうか。
調合室のドアが勢いよく開けられる。キスの怒りは表情に出ていないのは、三にバレたくないからなのか。
先程のキスの怒声と今の行動。それだけでなく、メアリが項垂れているのを見ても分かりやすくはあるのだが。
「予定変更よ。調べるのは一時中止。適当に瓶を持ち帰らせて貰うわ。メアリの分はアンタが選びなさい」
キスは部屋の調査を止め、いくつかの薬を持ち帰る事を選ぶ。自室であれば、毒を判別出来る魔導具があるのだろう。
これはキス自身のためでなく、メアリのための行動。
「承知しました」
それに対して、メアリも口を出さない。いや、キスの手前、出す事が出来ない。
カイトは三を通り抜け、瓶を幾つかを手に取る。素材ではなく、瓶であれば、中を開けない限りは毒になる事はないはず。
それが分かっていて、キスも瓶を取るようにカイトへ指示を出したわけだ。
『彼女の事はキスに教えないのだな。瓶を取るのも彼女の周りにしたのは、バレないようにするためなのだろ?』
三はすぐに瓶をポケットの中に忍ばせたが、キスが瓶の減り具合に気付くかもしれない。
それをカイトが手にしたと思わせる事が出来る状況でもあるからだ。
「そうです。彼女が生き延びる事で、また変化が起きるかもしれません」
魔物の登場がなければ、彼女が館の外に出なかった可能性がある。その時点で変化は起きているのだが、戻ってくる事により、侵入者や魔物についての情報を持ち帰ってくる事も考えられる。
「それに……彼女が僕に何を言おうしたのか……」
キスとメアリがいる状況では、三は先程とは違い、いつもの表情に戻っている。
あの先の言葉を聞くとすれば、彼女が生きて帰ってくる時しかないだろう。
「毒を部屋に置くのは後にして、先にコイツを外へ見送るわよ」
キスも部屋にあった瓶を複数取り、次の行動を指示する。
毒の検査。常に所持するのはメアリの体に害がある可能性があり、部屋に置いておくべきなのだが、三に怪しまれなくないのだろう。
毒耐性があれば、それを気にする必要はないからだ。
そして、三を早く外に出せば、メアリの秘密を隠すのが楽になるのもあるだろう。




