従者の扱い
「……アルカイズ様はどうなのですか? 彼はメアリ様より高位の魔法使いのはずです。勿論、メアリ様達には言いません」
カイトは三の話に乗る事にした。彼女がアルカイズをどう思っているのか。どう思っていても、主従関係、命約が逆らう事を許さないのだろうが。
「女好きのクズ主。けど、生活としては断然まし。従者でなければ、悲惨な事は分かってるでしょ」
メアリ達魔法使いが側にいる時とは口調が違う。これが本来の彼女の話し方なのか。人形ではなく、ちゃんとした感情が残っているようだ
他の魔法使いから引き継ぐ事もあるが、従者になれない只の人間は、売り物として牢屋に入れられているのが普通だ。
カイトの時もそうだった。水や食べ物もロクに与えられず、寒さを凌ぐ物も与えられない。
死んだ目をした人間ばかり。人形のように指示に従う従者はここで作られているといっても過言ではないのかもしれない。
「……分かります。僕もメアリ様に引き取られる前はそうでしたから」
「誰に引き取られるは運。それがずっと続くかも分からない。奪われる事もあれば、交換される事も」
主である魔法使いが生きていても、そこの従者に目をつけ、奪うために主を殺す事もあるらしい。他にも物々交換ならぬ、従者同士の交換も。
それを知るのは、アルカイズがそれに手を染めていたのか。
三はそれによって、彼の元へやって来たのか。
「そう言えば……館の主が亡くなった際、アルカイズ様とディアナ様の二人が零を引き取ろうとしてましたね」
ディアナは零の料理の美味さに目を付けたようだが、アルカイズは彼女の容姿から。
それも三がいる前で。彼女はまたかと思っていたのだろうか。それとも、今の立場を取られるとでも考えたのかまでは分からない。
「貴女……三はアルカイズ様が最初の主ではないのですか?」
「そうよ。アルカイズ様は二人目。従者同士の交換があったのよ。勿論、私達の気持ちは関係なしでね」
アルカイズが別の魔法使いから、三を引き抜いた。彼女の言い方では両方を恨んでいるとも取れる。
「それでも今の生活を手放すわけにもいかないから。命約がある以上、アルカイズ様を捜すしかないわけ。だから……一つは持って行かせてもらうわ」
三の手に小瓶が一つ。キスから毒を持っていく事は禁止されていたはず。それを黙っていろとでも言うつもりなのか。
「言っておくけど、これは毒じゃないわ。メアリ様だけでなく、キス様も試していた。二人に効果は皆無な臭い薬でしかないわよ」
そう言い、彼女はその小瓶からほんの一滴を手に落とした。そこに変化はない。
その手の臭いを嗅けとばかりに、カイトへ向けてきた。
「うっ……これは凄いですね」
ほんの少し吸っただけで悪臭だと分かる。毒の効果がないのも、カイトの体質からも分かった。
毒よりも悪臭の方が良い可能性がある事を、キス達も言っていた。
三も魔物や侵入者対策に持っていきたいところなのだろう。
だが、キスは三が殺されると考えており、助かって欲しくないとも思っているかもしれない。
そんな相手に僅かでも生き残るための道具を与えるだろうか。
「そうでしょ。それと……もし、貴方が」




