抑止
「何ボケっと突っ立ってるのよ。この部屋の物に触れなくても構わないけど、自身の体の不調を気にしなさい。ここに七がいないのだから。私達に毒耐性があったとしても、万能じゃないの。強力な毒であれば貫通するわよ」
『……彼女は大丈夫なのか。毒耐性があるからこそ、君は止めなかったのだろ。いや……メアリが何事もなく、行動に移した事自体が怪しく見るべきだった。魔法で魔力を吸収出来なかったのだから、君に無理をさせるわけにはいかないとでも思ったはずだ』
毒耐性は万能ではない。ある程度の毒であれば効果はなく、メアリやキス、魔法使いの体には届かない。身代わりになる命約も発動しないのだろう。
だが、耐性を貫く強力な毒であれば、命約は発動する。食堂と調合室の距離であれば、七が身代わりになる。
それが分かってるからこそ、キスも毒の確認をしているわけだ。
だが、メアリとカイトだと話は違ってくる。二人は命約を結んでいない。毒は直接メアリの体に入り込んでしまう。
それは彼女自身も分かっているはず。下手すれば、キスに命約をしていない事がバレかねない。
『だからといって、彼女と命約を結ぼうとするなよ。彼女自身が断るだろうが、君が死んだ時点でこの世界は消滅する。知らずとも、彼女の行動は間違ってはいない』
この世界は死神が作った擬似的世界に過ぎない。カイトが死んだ時、この世界は消えてしまう。
カイトにとってはメアリを殺させたくないだろうが、重要なのは彼自身の生存。目的は彼女達を殺した犯人を知る事。
捕まえる事は不可能。彼自身はすでに死んでおり、数年経過しているからだ。
「……ですが、僕はメアリ様には無理をして欲しくはありません」
カイトはメアリを止めたい気持ちはあるが、キスがいる手前、それが出来ない。
代わりにすると言っても、メアリだけじゃなく、キスも止めに入るだろう。
強力な毒だとしても、毒耐性を通しての方が、弱くなるはず。従者が直接触れて、死ぬよりかはましだからだ。
『止める方法……彼女を抑止する事は出来る。勿論、私が直接世界を操作するわけじゃない。メアリやキスに対してもだ』
死神が擬似的世界を操作可能な時点で、犯人を特定するのは容易くなるだろう。だが、彼女はそれをしない。この事件を楽しむのが彼女の目的であるからだ。
カイトに親身になっているように見えて、実はそうではない。操作出来ないわけではなく、するわけじゃない。可能だが、しないだけだ。
メアリが今回のような行動を止める方法。そうなれば、危険な目に合うのはカイトになってしまう。だが、従者としては当然な事。拒否する権利はない。彼が上手く立ち回るしかない。




