穴
「メアリ様。椅子をお借りしてよろしいでしょうか」
「構いませんよ。その高さは届きそうにもありませんしね」
「ありがとうございます」
カイトは時計に触れるため、部屋にある椅子を使う事に。
壁に掛けられた時計は高い位置にあり、椅子等を使わなければ、届きそうにもないからだ。
「……やっぱり、普通の時計ですね。表面に仕掛けがありそうな箇所はなさそうですし、横から見ても厚さがないのが分かります」
カイトはメアリやキスではなく、死神に話すように頭の中で言葉を浮かべる。
時計に関しては、メアリがこの部屋に来た時に一度は調べているのだが。おかしなところはなかったはず。
『……匂いが他に比べて、強く感じる。何かあるのは間違いない』
だが、死神の鼻がこの箇所だと示した。
「分かりました。一度時計の針を回してみます」
この時計で出来る事といえば、時計の針を回すぐらい。だが、メアリがここに来て、二日が経過している。
時計の針は何度も重なっている。ある箇所で何かが発動しても、気付かないものなのか。
「何の反応もなしです。やはり、針が仕掛けにはなってないようです」
この丸い時計に針以外に動かせる箇所はない。当然、押すためのボタンもない。
『待て……よく見ると、壁に薄っすらと溝が二つあるぞ。色と同化していて、この距離でないと分からなかったかもしれない』
時計の後ろ側の壁に二本の横線の溝がある。
「ですが、横にズラす事が出来たとしても」
横に移動させるのも、時計自体を外せば問題ないのではないか。
「あっ……これは!! ここを使えば」
『匂いを送り込む事が出来る。こちらの時計を動かなくても、隙間はありそうだからな』
カイトが時計を横にスライドさせると、手が通せる程の穴が空いていたのだ。
その先にあるのは空室となっている客室。
あちら側も穴を隠すために、時計が置かれている。それもスライド式であれば、あちらの部屋に入らずとも動かす事が出来るのだ。
『この穴を利用したのだろうな。メアリ達魔法使いが使用していない客室には、一部屋を除いて、鍵が掛かっていないからな。潜り込む事は可能だ。キス達の部屋も調べてみるべきだろう』
「分かりました。これを見れば、キス様も部屋を確認すると思います」
こうなってくると隣の客室も確認しなければならない。道具は残されてなくとも、その部屋に匂いが残っていれば、確実となる。
『だが、幾つかの疑問はある。その中には事件と関係ない事も含むのだが』
「……どうしたのです? 時計があった場所に穴が……隣と繋がっていたのですか!?」
カイトと死神の会話が途切れ、メアリがカイトの側に寄ってくる。
彼の驚いた顔を見て、何かを発見したと思ったのだろう。
「七!!」
「確認してまいります」
メアリの声はキスにも届いており、すぐに七を動かした。勿論、自身の部屋と隣の部屋が時計がある場所で繋がっているかの確認のためだ。




