時計
「従者達が眠らされたように、私の部屋にもその匂いが混じっていましたか? それに……時計を気にしているようですが」
メアリはキス達の会話を気にしながらも、カイトの動きを見ていた。
部屋に仕掛けがあるのかを確認する前に、従者の部屋にあった匂いが、この部屋にあるのかを知らなければ意味がない。
『結論から言うと、ありだ。君はこの部屋に何度か入っているからな。その時の匂いとは僅かに違っている』
「……いつもの匂いとは違ってます。それが何処から来たのか。念の為、時計周りを調べても構いませんか?」
「許可しますが……この部屋に最初からあった物です。仕掛けを施すにしても」
「匂いはあったのね。けど、出所を捜すにしても、そこは流石にないでしょ。仕掛けが出来るような大きさじゃないわ」
「……はい。一階にある二つの大きな時計であれば、可能なのかもしれませんが」
カイトが匂いを確認した事で、キスが二人の会話に割って入ってきた。
メアリはキスと同じような事を言うつもりだったようだ。
時計の大きさ。
一階の階段付近、左右に大きな柱時計が設置されている。
その時計の振り子のある箇所に魔導具を隠せるなり、それ事態が魔導具として使えるように設計されていてもおかしくはない。
だが、メアリの部屋にある時計は別。メアリの部屋だけでなく、キスの部屋にあるのも同じ時計だった。
それは直径三十センチ程の壁に掛かった丸い時計。
数字以外に怪しい文字が描かれている事もなく、何かを隠せるような厚みもない。
何処にでもある、至って普通の時計でしかないように見える。
「針を回せば、魔法が発動するというのもなしね。時計は魔導具でもないから」
この時計は魔導具とキスは言い切った。そうだった場合、メアリ達魔法使いは警戒して、外す可能性もあった。
それに針を回す事で何かが起きるのだとすれば、彼女自身が回す必要がある。回したとして、それを隠す理由もない。
『魔導具に関しては、彼女達の方が知っているはずだ。確かにあの時計で何かを施すのは無理かもしれないが』
調べなければ、確実にないとも言い切れない。
それをしなかったがために、メアリ達が殺された可能性もゼロではないのだ。
「それでも……調べさせてください」
カイトはメアリではなく、キスに頭を下げた。
メアリは許可を出したが、何もなかった場合は時間をロスしただけになってしまう。それをキスが許すかどうか。
「アンタの主が許可したのだから、調べなさいよ。それぐらいの時間はあげるわ。こっちの話も進めないと駄目だし」
カイトが匂いを嗅ぎ取った事を考慮して、キスも時計を調べるのを許可するのだった。
とはいえ、キスはカイトが調べる事に興味は持たず、三と零の会話に加わる。




