発生場所
カイトはメアリの部屋に足を踏み入れる。
昨日と変化はなし。ディアナ同様、机の上に魔物の体毛が乱雑に置かれている。
魔物の体毛を調べている最中に意識を失ったのだろう。ベッドも使われた形跡はない。
この時点で、メアリが眠らされたとは判断出来ない。カイトはこんな状態を何度も目にした事があるからだ。
寝落ちしてしまうほどに集中してしまっていた。ディアナやキスも同じだろう。
「つ、机の上が散らかっているのは無視してください。後で私が片付けますから」
カイトが机の上へ視線を向けた事で、メアリは慌てたように口にする。キスの手前なのもあるのだろう。
掃除も従者の役目なのだが、魔法に関係する物に関してはメアリ自身が整理している。下手に触れれば、危険な物もあるからだ。
キス自身は全く気にした様子はない。アルカイズ捜索時、一度メアリの部屋を見ているのもある。
メアリが部屋に入らないのであれば、従者だけで何か出来る事もないと考えているのだろう。
「外に出る時間を決めないと駄目ですよね」
「一時間以上は欲しいところなのですが……」
零と三の会話が聞こえてくる。隠すほどの内容でもなく、小声で話す必要もない。むしろ、メアリとキスに内容を聞かせる必要があると思っているのかもしれない。
「……時間か」
カイトは声に出したわけではなく、頭の中に浮かんだ言葉。それはメアリ達には無理でも、死神に伝わる。
『なるほど。調べてみる価値はあるかもしれないが……可能性は低いぞ。色々と問題もある』
死神はカイトが二人の会話に耳を傾けた事を怒りもせず、何を考えているのかを把握した。
「……そうですよね。それを仕掛けたのは館の主になりますし」
『侵入者が仕掛けるのは難しい。時限装置というのは、悪い発想ではない。可能性を一つでも消すためにも調べる許可を得るべきだ』
魔法を使わず、部屋の人間を眠らせるためには、何か仕掛けがあるはずなのだ。
侵入者の事を考えなかった場合、部屋自体に仕掛けがある可能性があるのではないか。
メアリ達魔法使いに用意された部屋は、彼女達が持ち込んだ荷物で改装されている。
そのために本来あった家具は別の部屋に移されているわけだが、一つだけ残っている物があった。
時計。それだけが部屋に残されていた。
形は違えど、従者の部屋にもあり、他の魔法使いの部屋にもあった。
時間でガスが発射させるようにすれば、気付かれる事もないのかもしれない。
その場合、仕掛けたのは館の主。でなければ、侵入者が魔法使い全員の部屋に入った事になる。
それが出来たのかというと、誰にも見られずにするのは不可能に近いのではないか。




