鍵
「キス様、メアリ様。鍵は二つとも机の上にありました」
カイトと七がディアナの遺体をベッドに運び終えたタイミングで、三が部屋の鍵を発見したようだ。
「よくやったわ。けど……机の中ではなく、上にあるとはね」
「……ですね。侵入者の立場だったら、私は持っていきます。この部屋の鍵だけならまだしも、もう一つあるわけですから。それに……机の上といっても、気づきにくい場所でしたか?」
「隠されてはいませんでした」
鍵は机の見える場所に置いてあった。ディアナとしても、わざわざ隠すように置く必要もなかったからだ。
『ディアナを殺した相手は、机の上に人形を置いた。その時に鍵が置いてある事に気付かなかったのかだな。メアリが途中で止めた言葉もなんとなくだが分かる気がする』
侵入者はディアナの人形を置いた時、鍵の存在に気付かなかったのか。
それよりも珍しい物があったのだから、そちらに目が行ったのなら、メアリは理解出来たのだろうが。
「……魔物の体毛ですか?」
机の上には魔物の体毛でさえ放置されたままだった。
魔法使い全員が欲しがった物が持っていかれていないのだ。
侵入者はそれが魔物の体毛と判断出来なくても、ディアナが調べていた物だ。
珍しい物が置いてあれば、魔法使いなら放っておけないのではないか。
メアリも思わず、鍵だけでなく、魔物の体毛も持ち帰ると言おうとしてのではないだろうか。
『そうだ。ディアナを殺す事だけが目的だったとしても、持ち帰る事ぐらいはするのではないか?』
魔法使いならば当然。侵入者が魔物の死体を見ていたとすれば、間違いない。
それだけの勢いがメアリ達魔法使いにあった。
「それをしなかったのなら……侵入者は魔法使いではないという事ですか!? それは無理な話です。十の死体の消失もそうですし、魔法を使わなければ厳しいはずです」
魔法使いでなければ、ディアナの部屋に入ったのは従者なのか。
侵入者が魔法使いであれば、従者を連れて来ていてもおかしくはない。
だが、従者にディアナを殺す大役を与えるだろうか。
二人で行動した場合、見つかる確率は上がってしまう。
常に隠れながら行動するのなら、単独行動でなければ難しい。もしくは、館内に協力者がいなければ話は別かもしれないが。
『可能性はゼロではないだろ。魔導具も存在する。だからといって、七や三を疑うのも難しい』
二人もメアリとキスの会話から、魔物の体毛が重要な物だと分かっている。
主のためだとすれば、放置する事はしないだろう。
ディアナを殺した相手は魔物の存在を知らない。
メアリとキス、ディアナがいた時の会話さえも聞いていなかった。いや、聞こえる場所にはいなかったとも取れる。
『疑わしいが……もう一つ疑わしい事もあるのも事実だ』




