操り人形
「……主を含めて、二十時までは誰も外に出なかったわけですか」
死神がメアリ達の記憶から読み取ってるなら、間違いない。その記憶を元にした世界という事もあるのだが、見落としはあるものだ。
カイトがメアリの部屋から出た時、ほんの僅かな物音がした。死神との会話で一時的に止まっていた時間が動き出したようだ。
メアリの二つ隣の部屋。念の為、カイトは片目を閉じて、地図を確認する。
キス=ラブの部屋のドアが開き、従者が出てきた音だ。
『従者を数には入れるなよ。メアリは兎も角として、魔法使い達は従者を物扱いなのは、君も分かっているはずだ。私は彼等の口から情報を手に入れるのもありだとも言ったからな。それを否定したのは君だぞ』
死神はカイトに他の従者と情報交換するよう提案したのだが、カイトはそれに対して、無理だと答えている。
死神は彼からその理由を聞き損していた。
もう一度聞き直すのもありなのだが、二人がどう会話するかを死神は優先し、時を動かした。
「……今から従者の部屋に行くのですか?」
カイトはキスの従者、赤色の燕尾服を着た少年に声を掛ける。彼の番号は分かっていない。
「…………」
赤の従者はカイトの声に反応したものの、何の返事もなく、先々へと進んで行ってしまう。
アルカイズの部屋を通り越しただけでなく、下に降りる階段よりも向こう側へ。
従者の部屋で休まず、キスに探索を命じられたのかもしれない。従者をどう扱うかは主次第だからだ。
メアリの意見にディアナとアルカイズの二人は賛同したようだが、本当に従者を休ませるかどうかも分からない。
『返事もせずに行ってしまったな。先程の主同士の対立で敵視するという感じにも見えなかったぞ。興味がまるでなかった』
「……そうだと思います。従者の殆どは魔法使いの命令だけを聞く人形みたいになりますから。余計な事はしないはずです。主の情報を渡す事はないかと」
カイトが死神の言葉を否定したのも、魔法使いの従者となる事は人としての感情を失い、操り人形と化す事に近いのだろう。
『そうなのか? 確かにディアナ達が連れた従者達は君よりも、彼寄りの雰囲気はあったか? だが、館の魔法使いの従者である、零は違っていたぞ。それは君も同意見のようだな』
死神が言ったように、カイトも零が他の従者とは違うと感じ取っていた。
それは館の主がメアリ同様、従者を大事にしていた可能性。
次にこの継承権だけのために従者を雇ったか。従者は雇っていた順番の数字を魔法使いの主が付けるのだが、零という数字はどの意味で付けたのか。最後の従者として名付けたのか、一番初めの従者なのか。
『ここで一つ伝えておくぞ。彼女の記憶も見つけられなかった。君以外の従者達の記憶もそうだ。数字は名前とは見なされないようだ』
従者達の生死は不明。主達が死んでいるのであれば、命約によって死んでいるはずだが、零の場合は別になるのか。
館の主の死が寿命であるなら、肩代わりは出来ない。そうでなければ、魔法を継承する必要がないからだ。
ともなれば、従者である零を一番の容疑者と疑ってもおかしくはないのだが、従者が魔法使いに対抗出来るかは無理に等しい。