不自然
「ディアナの背中に刺されたのは私達が持っているナイフじゃなくて、包丁。この館にあった物かもね」
キスはディアナの背中に刺さった凶器を抜いた。その凶器は倉庫で手に入るナイフではなく、包丁だ。
倉庫には鍵が掛かっていて、ナイフを奪い取るのは難しいかもしれないが、調理場にも包丁という武器になる物は置いてある。
「それは調理場にあったものだと……ですが、私がディアナ様を殺したわけでは」
零は思わず声に出した。調理場にあった物であれば、自身が疑われると思ったのだろう。
「そんなので疑わないわよ。調理場だったら、誰でも忍び込めるでしょ。侵入者が武器を得るとしたら、そこなんだから。倉庫に武器があるのを知っていたら話は別だけど」
武器の場所が分からないのであれば、調理場に行くのが手っ取り早い。包丁は凶器にもなるからだ。
それに包丁を使用する事で、犯人を零に仕立てる事も考えたのかもしれない。
「ディアナの持ってたナイフは……それも机の上にあるわけね」
侵入者がディアナのナイフを奪い取ったわけではないようだ。
キスは渋い顔をしている。凶器がナイフではなく、包丁であった事におかしさはあるのか。
「……メアリ。私達がアルカイズ捜索時、ディアナの部屋を見せてもらったでしょ。その時に人形は置いてあった? 私は見てないわ」
「……私もです。あの時、そんな人形があれば、一番騒ぐのはディアナ様のはずです。それで従者が殺されているのを知っているわけですから」
アルカイズ捜索時、メアリ達魔法使いの部屋を中に入りはしなかったものの、全員で確認している。
その時にディアナの人形は机の上に置いてはいなかった。
となれば、それは何時置かれたのか。
解散した直後、ディアナの部屋に置かれていたか。もしくは、侵入者がディアナを殺した後に置いたのか。
後者の可能性が高いが、前者だった場合は余計にディアナの死体に違和感が出てくる。
「そうよね。侵入者が殺した後に置いたのが妥当だと思うんだけど……それでもおかしいわ」
「……はい。ディアナ様は侵入者に対して、警戒を解いていたとしか思えません」
キスだけでなく、メアリもディアナの死体が明らかにおかしい事に気付いた。
『ちゃんと気付いたようだ。ディアナの死におかしな点がいくつかある』
「それはメアリ様の言う、ディアナ様が侵入者相手に警戒を解いていたって事ですか?」
メアリとキスがディアナの死の不自然さに気付いたように、死神もそこは見抜いていたようだ。
『そうだ。まずはディアナの部屋の鍵だ』
ディアナの部屋の鍵。メアリが開けた時には鍵は掛かっていなかった。鍵は魔法で破壊された形跡はない。
彼女が鍵をするのを忘れたのか。侵入者や魔物の存在を知りながら、それをしないのは自殺行為でしかない。




