不在
「いえ……何もありませんでした。アルカイズ様が入った痕跡もなければ、私への指示する物が置いてもいません」
三はキス達に見せるよう、アルカイズの部屋を開けた。彼女の言葉通り、部屋の中は無人。荒らされた形跡もなく、十が死んだ客室のように血溜まりが出来てるわけでもない。
「アルカイズが持ってきた魔導具で取られた物はないわけ?」
「……そこまでは把握していません。簡単に触れていい物ではないのもあるので」
従者だとしても、魔法使いの道具を全て把握するのは難しい。魔法使いにとっては触れて欲しくない物もあるはず。
「そうよね。アルカイズが得意とする魔法の魔導具があったら、侵入者が使うかもしれないし。探知系は私も欲しいぐらいだから」
気配遮断の魔導具があれば、侵入者が使用している可能性もある。探知はアルカイズの居場所だけでなく、怪しい場所を教えてくれたのかもしれない。
「それは駄目ですよ。アルカイズ様の生死はまだ分かっていません」
「冗談よ。人様の魔導具を簡単に使うわけがないでしょ。それ自体が罠の可能性もあるんだから」
キスも冗談のつもりで言っただけだが、メアリにはそれが通じなかった。
「メアリ様、キス様もご無事のようで。貴女の武器も持ってきました」
零も二階へ上がってきて、三の武器である槍を渡した。
「私が無事なのは当然として、アンタは入口を確認してきたって事なんだけど……鍵は開けられたわけね。表情から分かるわよ」
零はメアリ達が無事でいた事に喜びの言葉を口にしていたが、それが表情と一致していなかった。暗い表情でいるのは、悪い結果だと教えているようなものだ。
「壱達が眠らされた以上、侵入者の仕業になりますからね。けど、二回は魔法を使った事になるとは思うのですが……侵入だけが目的ではないですよね」
「そうだろうね。無駄に従者を眠らせた事にも理由はあるだろうし。侵入したのを教えるようなものだから」
侵入者が鍵を開けるのと、従者を眠らせるので魔法使用が二回。残る一回で何をするか。
侵入者が魔法を使用出来たのなら、メアリ達は魔法回数が三回残った状態。襲うにしても、侵入者が明らかに劣勢になる。
「一階に何か取りに来たとかでしょうか」
従者達を眠らせたのは一階を調べるため。残り一階を何処かの部屋の鍵を開けるために使用した。
倉庫ならば、武器の調達するためもある。長期戦を考えるなら、調理場から食べ物を奪ったとも取れる。
「あの……ディアナ様はいないのですか?」
零はメアリとキスに尋ねた。彼女が起こすつもりだったとはいえ、廊下での騒ぎに彼女は目を覚ましてもいいはず。
現にメアリはカイトが起こすよりも先に廊下へと出ていた。




