無効化
「……アルカイズ様が外には出た可能性はあるのでしょうか。その時に襲われた場合……」
メアリはボソッと口にした。魔物の死体がいつからあったのか。アレを見れば、館の中に戻る……いや、アルカイズはディアナ達のように魔物を調べようとするだろう。その時に襲われたとすれば、別の魔物がいた事になる。
「ああ……そういう事ね。確かにそれだと三がアルカイズの代わりに死なない可能性はあるわ」
キスはメアリの言葉に納得した顔を見せている。
「体毛だけでなく、全てにおいて魔力を無効化にするのであれば……ですね。一時的にそれを出来る魔導具もあったぐらいですから」
「……何? 興味ありそうな顔をしてさ。こんなに優しい主がいるのに、命約を切りたいと思ってるわけ?」
キスは意地悪そうな顔で、カイトの方に顔を向けた。聞き耳を立てるようにして、メアリ達の方に目を向けている事は、彼女も分かっているようだ。
「キス様!! 壱はそんな事を思いません」
カイトではなく、メアリがそれを否定する。カイトが口にする事自体、嘘のように聴こえるとキスなら指摘するかもしれないからだ。
「キスも必要ない事は言わないように。……説明をするなら、命約も一つの魔法。魔力による契約です。魔物がアルカイズを攻撃した時、魔力を無効化にすれば、命約による身代わりは意味を無さなくなるかもしれません」
つまり、アルカイズが殺されても、三が身代わりになるわけでなく、本当に彼が死ぬ事になる。
彼女が生存しているからといって、アルカイズが無事であるか分からなくなったわけだ。
『それはないな。人形の見立てを考えるなら、アレで済むわけもない。喰われたというなら、バラバラになっていてもおかしくないぞ』
アルカイズの人形は無数の切り傷があったが、バラバラにはされてなかった。アレが予知による死を見せているのなら、おかしな事になる。
『そんな殺され方をされたのなら、十の時のように血溜まりが何処に出来てるはずだ。それに肉や骨の欠片でも残っていてもおかしくはない。魔物が綺麗に喰い尽くすにも時間がない』
死神は魔物がアルカイズを殺害した事を強く否定してきた。
確かに魔物に喰い殺された場合、その惨状が消えているのはおかしな話だ。
それに外へ出るのなら、流石に従者である三には伝えるだけでなく、同行させるはずではないか。
「ですが……彼はそんな無謀な行動には出ないでしょうね。従者も付けず、単独で外に出るなんて事はしませんよ。なんせ、気配を消すような臆病者ですから」
ディアナは魔物による命約の無効化の説明をしたかと思えば、アルカイズが魔物に殺された事を否定した。
彼は気配遮断の魔法を使う程に警戒心が強い。それも従者である三の首なし人形を見たのだから、次は自分だと考えた場合、余計にそう思ってもおかしくはない。
何が起きるかも分からない状態で、館の外に出る事は可能性はゼロに近い。
ディアナとアルカイズの長い付き合いだからこそ、言える言葉だろう。




