勘
「……何か聞こえたんですか?」
前回同様、死神の耳によって、零が調理場にいる際に何か言っているのが聞こえたのか。
メアリと一緒に行動するだけでは、事件の真相には辿り着けない。
魔物についてのディアナやキスの考察は、後々メアリから聞く事も出来るだろう。それを死神が言っているのかもしれないが。
『いや……彼女が何かを言ったわけじゃない。ただの勘だ』
死神はそれを否定する。彼女はカイトの協力者だ。この事件の真相を知るために、擬似的世界を生み出した。彼に嘘を吐く理由がない。
彼女は勘と口にした。とはいえ、死神の勘とはどれほどのものなのか。
「……メアリ様。今の状況で彼女を一人で見回りをさせるのは。館の従者だからといって、狙われないとも限りません。彼女を追いかけても構いませんか?」
カイトは死神の勘を信じて、彼女を追う事を選んだ。
メアリも食堂にいれば安全だろう。魔法使い同士の争いは禁止されている上に、魔物の情報交換時だ。三人共に協力的になっているはず。
アルカイズの事もそうだが、零の安否もメアリなら心配してもおかしくはない。カイトが向かう事を許可するだろう。
「いえ……ここは私が彼女を追い掛けるべきです。ディアナ様、キス様、メアリ様が情報交換する中、この場に主がいないのであれば、立ち聞く事は控えなければ」
だが、それを三が立候補してきた。
アルカイズであれば、三にはメアリ達の情報を手に入れさせようとするのだろうが、彼女は今はアルカイズ捜索に協力してもらう立場。
印象を悪くすれば、キスやディアナであれば、捜索を打ち切る可能性もあるのだ。
「それもそうね。アンタには聞かせたくないかも。アイツを追い掛ける事を許可するわ」
キスが先にカイトではなく、三が零を追い掛ける事を認めてしまった。
「貴方よりも、彼女が行くのは同感です。主を置いていくべきではありませんよ。ましてや、私達は魔法を使い果たしているのですから。守るのは従者の役目ではありませんか」
そうなのだ。キス、ディアナと人数が揃っているのはいいが、全員が魔法を使い果たしている。それによって危険が増すのは間違いない。
「……壱の気持ちは分かるのですが、ここは彼女が行く方を……二人と同意見です」
「……分かりました。彼女にお任せします」
メアリもカイトが行く事に反対した以上、零を追い掛ける事は出来なくなってしまった。
三と一緒に向かうというのも、食堂の守りを減らす事になる。主を守るためには避けなければならない。
『これは仕方がないが……三が発言した事に驚いたな。彼女の言葉に矛盾はなさそうなのだが』
死神は三が行動する事に疑問が少し生じたようだ。
「別に何もおかしな事は」
『自分の身を心配するならば、零を追い掛けるよりもこの場にいた方が良い。そもそも、君達は別の従者のために行動をするのか?』
死神が言う『君達』というのは従者の事だ。
主のために動くのは分かる。だが、仲間でもない従者のために、身の危険を冒すのか。しかも、彼女はそれを立候補したのだ。
三は零と合流するため、食堂を出ていってしまった。




