触らぬ神に祟りなし
「二十時で間違いありません。今一度確認します。私は時間に呼びに行かず、各自集合でよろしいでしょうか」
「それで構いません。キスには私から伝えておきます」
「メアリもそれで問題ないか?」
「……はい。大丈夫です。私の事を心配して頂き、感謝します」
「継承権争いの前に余計な事を増やしたくないだけだ。開始前に一人が欠けて、この話が無くなるのは御免だからな」
「その通りです。それは貴女も同じはずですよ。候補者に選ばれたとしても、怪しいからと拒否する選択も出来たはず。それでも来たという事は」
メアリはカイトの病気を治すために回復魔法を必要としていたが、それは全員が同じ事。必要であるから、ディアナ達もこの場所にやって来たわけだ。
些細な出来事で継承の話がなくなるのは、全員が避けたい。キスもそれは同じはずなのだ。
「……そうですね。その魔法が必要だから、ここに来たんです」
アルカイズとディアナの言葉に、メアリは軽はずみで継承権を放棄すると言葉にするのは難しいと察した。
貴重な魔法なだけに他人のために使用出来るか。回数が決まっていたならば、自身のためだけに使うだろう。
「申し訳ありません。もう二つ……皆様方に行っておく事がありました。一つはディアナ様、アルカイズ様、メアリ様も承知だとは思うのですが、今はまだ、館の中にある物を安易に触れないでください」
館の主の従者は失礼ながらも、ディアナ達を引き止め、注意事項を口にした。
「魔法使いが住む場所では当然の事だ。何が引き金になり、魔法が発動するか分からないからな。とはいえ、用意された部屋内の物は問題ないのだろ?」
「はい。アルカイズ様達が泊まる部屋は安全です。何に触れても大丈夫ですが……極力魔法を使わないでください。部屋の中でもです」
従者はメアリ達に用意した部屋が安全であると言葉に発したが、魔法を使わないように警告したのは何故か。
「人の物を魔法で壊す趣味はない。壊す事によって、呪われでもしたら、話にならないからな。余計に回復魔法が必要となってしまう」
魔法使いは自身を守るためだけでなく、魔法に関係する道具を収集する事がある。その道具は様々な方法を用いて、発動する。防衛の面もあるのだ。
『触らぬ神に祟りなしと言う言葉があるのだが、触っては駄目と言われたら、気になるのが人の性だ。君も触るなよ。だが、今はまだ……という言葉は』
カイトもメアリの従者である事から、魔法使いが住む場所が、他者にとっては危険である事は理解している。余計な行動はしてはならないと。
だが、彼女の発言は触れる機会が出てくると暗示してるとも取れてしまう。
その失敗が、誰かの死に繋がっているのか。
死神はそれについて、カイトに何も言わずにいる。
「もう一つは従者が休む部屋の位置です。この階段の左側。すぐ横にある大部屋がそれです。今は私一人なので、広さは十分あります。個々に用意するのは無理なので、ご容赦ください」
メアリの従者はカイト一人であり、個人の部屋となっているが、多数の従者を抱えている場合は個々に用意するのではなく、一つの大部屋となっている。
「従者の方々も扉には何も仕掛けてありませんので、自由にお入りくださっても大丈夫です」
従者達は頷くが、その部屋に行けるのかは主達次第。
「それで終わりのようですね。十も前に進んで結構ですよ」
ディアナは十に命令し、階段を上がっていき、メアリやアルカイズ、三がそれに続いていく。
「……貴女の番号を教えて貰っても構いませんか? 呼ぶ時に必要になるかもしれませんので」
カイトはこの場から離脱時、彼女の名前、番号を尋ねた。情報は少しでも多い方がいいからだ。
「零です。最後の従者として、そう付けられました」