五本の線
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「メアリ様。もう少しで夕食の時間になります。調べるのはそろそろ……」
「ふぅ……もう二十時になるのですか。壱がいる安心感もあって、集中出来たかもしれません。いつも遅れる形になっているので、今回こそは早く行かないと駄目ですね」
カイトが果物と飲み物を部屋に運んで数時間。メアリはずっと魔物の体毛を調べるのに集中しており、一切彼に話す事はなかった。
その間、彼は彼女の椅子に座る後ろ姿を見ていただけ。
いや……カイト自身、今日あった出来事を頭で整理する時間に費やした。勿論、それは死神には伝わっている。
「その方が良いと思います。それでですが……魔物について何か分かったのでしょうか? ディアナ様やキス様と情報を交換しますよね?」
夕食時、メアリ達は魔物についての情報交換をする事になっている。彼女としては何も見つからなかったのは避けたいところだろう。
カイトもそこは知っておきたい。従者である十の死とは別個であるが、メアリ達の死ぬ理由が侵入者だけとも限らない。
零達が見つけたのは魔物の死体だったが、森にはまだ別の魔物がいてもおかしくはないのだ。
それに死神から魔物について聞かれる事が一切なく、死体に関して触れる事もしない。
だからといって、死神からカイトへの声掛けがなかったわけではない。
倉庫内にある謎解きのヒントに対する死神の考察を彼に伝えた。音楽室の謎解きであり、ナイフの形状、ナイフが置かれた場所にあった五本の線。
それを合わせるとナイフと五本の線は楽譜を示していたのではないか。それは音楽の知識が無ければ分からない事だ。
七はカイトが手にしていたナイフを見ている場面もあり、彼女達が倉庫へ向かう中、七は零にナイフの形だけでなく、それが何処に位置していたのかを聞いていたのを死神が耳にしていたのもある。
それが正解だったのは、キス達が謎解きを終えた後になるのだが。
「そうです。魔物に関しては分かったのは、この体毛に魔力はちゃんと宿っていた……という事でしょうか。ディアナ様やキス様もそう判断してくれたら確定してもいいと思うのですが」
魔物の体毛には魔力が宿っていた。あの死体を見つけた時、魔法使い全員が魔力を感じ取れなかった。
その原因は魔物がすでに死んでいたからだと考えていた。
感知出来ない魔力。それがあったのなら、死体が消失した理由になるかもしれない。
ただ、それは魔物が宿した魔力だったのか、魔物を攻撃した魔法で残った魔力のどちらなのか。




