把握
「確かにそうですね。魔物に関する情報が少しでも分かれば、ディアナ様も安心するかもしれません。そのためには……」
メアリは申し訳なさそうにカイトの方へ顔を向けた。
「大丈夫です。昨日やってもらったばかりですし、全然耐えられます。魔法を使ってください。ですが、夕食以降の探索は控えた方がいいと思います」
カイトはメアリの顔を見て、意図している事を察した。彼女はすでに今日分の魔法を二回使用している。残りは一回だけであり、それはカイトに溜まる魔力を吸収するため、メアリが残していた。それを魔物の体毛の調査で使用に変更する。
主の命令に従者が背けるわけがないのだが、メアリとカイトは普通の主従関係とは違う。
「ありがとう。か……壱は部屋で休んでいても構いませんよ。この状況ですから、単独での探索は止めて欲しいですけど」
「いえ……今はメアリ様と共にいます。アルカイズ様の部屋の事もありますから。僕がいたら集中出来ませんか?」
アルカイズの部屋は鍵が掛かっていたのにも関わらず、侵入されている。侵入者の魔法回数は制限に達しているだろうが、警戒はしておくべきである。
「いてくれた方が安心して、集中出来ますよ。吸収が出来ない以上、少しでも体を休めた方がいいと思っただけです。壱が構わないと言うのであれば……待ってください。その前に飲み物……軽食を運んできてくれませんか? 勿論、私だけじゃなく、壱の物も持ってきても構わないので」
「分かりました。甘い物の方が良いですか? 調理場に置いてなければ、軽く作ってきます」
「作るまではいいですよ。なければ」
「果物ですよね。あるか見てみます。何かあった時は鈴を鳴らしますから」
メアリがこういう調べ物をする時に何を必要としているのかをカイトは把握している。それを欲する時は余程集中したい時である事も。
ホットミルクと甘味物。なければ、フルーツでも良い。零を見かけたら、聞いてみるのもありだろう。
カイトはメアリの部屋から廊下に出た。果物でも構わないのであれば、すぐに戻る事は可能だ。
二階の廊下に人の姿は見当たらない。キスが体毛を調べている中、従者である七はどうしているのか。
キスの部屋に待機しているか、館の探索を継続させているか。従者の部屋で休ますという選択を彼女が取るかどうかである。
アルカイズの従者である三の姿も見当たらない。
彼女にも武器は必要であり、それは零が伝えておくという話になっている。倉庫の鍵も今は彼女が持っているからだ。
魔物が出現した事もあり、零も出入口には目を光らせているはず。侵入者が一度外に出ていた場合、簡単に入れはしないだろう。
つまり、三を殺すのも難しいという話だ。




