消失
「ここには来てないだけで、アイツは二階にいたから。私達と話した後、殺された上に変身させる時間はないでしょ」
キスが三の姿を確認しているのなら、この魔物が三の変身させられた姿ではないのだろう。
確かに三が殺害されるのはおろか、変身させる時間はなかった。死体の冷たさも時間が経過しているのを物語っている。
「この場に来ないアルカイズの分は必要ないでしょ。首が気になるなら、別の箇所でもいいから、七もさっさと切りなさい」
七も最初は魔物の姿に動揺していたが、キスの指示により、魔物の死体の前に立つ。そして、その死体に剣を振り下ろした……はずだった。
「……って!? ちょっと待ちなさいよ。ディアナ達が魔法を使ったわけじゃないでしょ。魔力も感じなかったし」
先程まであった魔物の死体が忽然と消え、七が振り下ろした剣は空を切っただけになった。
「勿論です。私達が駆け付けた時には魔物の死体がありました。館から出たところをキス様も見たのですよね?」
キスはメアリ達の行動を見ていなければ、館の外に出ていない。
「メアリも落ち着きなさい。キスは私達がやってないと分かってます。それにしても……いきなり魔物が消えるなんて。時間の経過によって、消える物なのでしょうか」
ディアナ達にとって魔物は御伽噺のような存在であり、どのような生態なのかは分かっていない。
「魔物がこの森にいるなんて事は主から聞いていなかったので、驚きました。皆様の魔法なのかと疑ったぐらいです。ですが……反応を見ると違うと分かりました」
ゴールド=ゴールも魔物の存在を知らなかった。でなければ、彼女が悲鳴を上げるほど驚く事はないだろう。
それはメアリ達魔法使いも同じ。全員が興味を示し、体の一部を持ち帰ろうとするほどだ。死体が本物だったとしたら、独り占めにするはず。
目に見えるところに置く理由が見当たらない。
「そんなわけないでしょ!? 幻を見せる魔法だったとして、触れる事なんて出来ないんだから」
「そうです。私達は確かに触れていました。冷たい感触が残っています」
あの魔物は幻ではない。ディアナ達魔法使いだけでなく、カイトも確かに触れていた。魔法使いだからというわけでもない。
「魔法でない理由はここにあります。何故か私の手にはこれが残ってました」
メアリがディアナ達に見せたのは刈り取った魔物の体毛。魔物の死体が消えても、これだけは残っており、魔法ではない証明になった。
「これ!! 少しでもいいから分けてちょうだい」
キスはそれを奪い取りそうな勢いだ。死体が消えて、貴重な素材となったのだから当然だ。
「大丈夫です。僅かになりますが、ディアナ様とキス様にも分けます」
メアリは二人に魔物の素材を分け与えた。




