御伽噺の存在
「壱!! 先に行き過ぎですよ。二人共無事で良かったのですが、一体何が……」
「貴女もですよ。私も年なのですから、そこは合わせて貰わないと……」
メアリが少し遅れて、零がいる場所へ。カイトが足早に走った事もあるのだろう。ディアナも更に遅れてやって来た。彼女に至っては僅かな距離を走っただけで息切れしている状態だ。
「す、すみません。ですが……これを見てください」
メアリはカイトと零の側に寄り、獣を確認した時に言葉を失っていた。
「侵入者の姿はないようですが、一体何を」
ディアナにも獣の姿が目に入った。
「もしかして……魔物ですか!? 御伽噺のような存在のはずですよ」
「私もそう思いました。ここまで大きな狼は知りません。可能性があるとすれば、魔物や魔獣かと」
死神が疑っていた魔物の存在がメアリ達の目の前に現れたわけだ。
「ですが……すでに死んでいるようです。魔法使いの私達が来ても、何の反応もありません」
メアリの指示で、カイトが先に魔物に触れた後、彼女も魔物を調べ始める。
勿論、ディアナもそれに興味を示し、調べ始めたのは言うまでもない。
カイトが魔物に触れた時、その体はすでに冷たく、体も固くなっていた。
人と魔物が同じなのかは分からないが、魔物が死んでから、かなりの時間が経過しているのだろうと予想出来る。
「ディアナ様、メアリ様……そのナイフは」
零はカイト達がナイフを所持している事に驚いているようだ。
「これは貴女の悲鳴が聞こえたので、倉庫にあったナイフを借りました。このような魔物がいるのだったら、私達に武器を貸して貰わないと……魔法回数の制限もありますし」
ディアナは思いついたように、零を説得する。それも彼女の方に体を向けず、魔物の死体に集中したまま。まるで、侵入者の事を忘れた感じだ。
死体とはいえ、魔物の登場に興奮しているのだろう。メアリもディアナ程ではないが、魔物の体毛をナイフで採取している。
「体内も調べてみましょう。どうやって、死んだのかも確認しておくべきです。侵入者が倒したのであれば、何かの痕跡があるやもしれません」
魔物というよりも魔獣ではあるが、これがどうやって死んだのか。
侵入者が倒したのか。こんな巨大な魔物と戦闘が起きれば、館にいても気付くようなものなのだが。
死神の聞いた言葉からして、零の仕業でもないだろう。魔物を従者が殺せるはずもなく、死体を運ぶ事も難しい。
「ちょっと!! 二人揃って、何してるわけ!? アンタ達がナイフを持って、外に出ていくのが見えたわよ」
二階を調べていたはずのキスまでがやって来た。零の声が聞こえなかったのかは分からないが、ディアナ達が外に出て行ったのを目にしたようだ。
しかも、従者の七の手には剣が。カイトは倉庫の鍵を閉めておらず、キスは倉庫に立ち寄り、剣を七に持たせたのだろう。
代わりにキス自身は何も手にしていない。




