対立
「残念ですが、主は皆様の前に姿を現す事はありません」
館の主の従者はメアリ達に頭を下げ、再び案内に戻ろうとする。
「……はっ!? 人様を呼んでおきながら、挨拶するつもりもないって、どういう事よ!! こっちは色々と聞きたい事があるわけ。動けない程に弱ってるなら、私達がそっちに行ってあげるから、主の元に案内しなさい。それと!! 主の本当の名前も教えなさいよ!!」
「それも出来ません」
キスは椅子から立ち上がる程、従者の態度に腹が立ったようだ。本来、魔法使いの言葉は従者にとっては優先するべき事。それを彼女が拒否したからだ。
「落ち着きなさい。拒否された事に腹が立つのは分かるのだけど、絶対とされるのは主の言葉です。これは忠実に従ってるだけよ」
ディアナはキスとは違い、落ち着いている。従者にとっての主の言葉は絶対。従者である彼女の行動は間違っていないのだ。
「けど、私達に会えない理由は説明するべきだし、聞く権利はあるはずよ。会えないのなら、コイツが継承の話をするしかないのだから」
「私達の中の一人、勝者としか会わないというものなら、納得はするが……」
ディアナの言葉にアルカイズは付け加えた。継承権を得るために、メアリを含めた四人で何らかの勝負をすると予想をしているからだ。
「……メアリ様も皆様と同じ考えでしょうか? すぐにでも説明が聞きたいと。全員が同じでしたら、この場で」
かの従者はメアリに意見を求めた。彼女が同意、全員が同意見ではないと、説明するつもりはないらしい。
「勿論、メアリも同じに決まって」
「キス様、申し訳ありませんが、私は先に従者である壱を休ませたいと思ってます」
「メアリ様!!」
カイトはメアリの発言に思わず声が出てしまった。
ここはメアリも三人の意見に同調し、敵視される事を避けるべきなのだが、彼女はカイトの体調を優先し、そこを曲げるつもりはないらしい。
メアリの目から、カイトの態度がいつもと違うと見えたのだろう。
「はっ!! 従者を大事にする魔法使いとは聞いてたけどさ。従者は取り替え出来る物なのよ。そんなのに時間を割いてる暇はないわ」
キスはすぐさま反論する。魔法使いとして当然の考え。先程の従者の態度もあって、怒りが冷めてない様子だ。
「本当に勝負をするのでしたら、話を聞き終えた時点で始まるでしょう。私達魔法使いもそうですが、従者も万全な状態で挑みたいのです。下手に失敗するわけにもいきません」
メアリは怖じけず、キスの反論を返した。従者を心配するのではなく、従者の失敗が勝敗を決める事になれば、後で後悔する事になると思わせる。
『上手いな。勝負次第では従者のミスが命取りになるわけだ。従者が先に死ぬとしても、替えがいない状態だからな』
死神はメアリに対して、過保護な主かと思っていたが、頭の回転が速く、他の三人の魔法使いよりも一枚上手に見えた。
「……一理ありますね。話を聞けば、私達は動き始めます。従者を簡単に使い捨てるわけもいかず、何処で休ませるかも考えないと駄目になる」
「皆で休む時間を決めようにも、抜け駆けする輩は出てくるだろうな。ならば、一番初めに休ませるのが吉という事か」
ディアナとアルカイズは後々の事を考え、メアリの意見に耳を傾けた。