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【コミカライズ】愛するつもりなぞないんでしょうから  作者: 真朱
第3章

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24. 次なる敵は自国民①


 遠投の極意は、角度とリリースポイント、そしてやっぱりパワーである。ディアナは鍛えに鍛えた極上の技術でもって、角度とタイミングは文句のつけようがないが、パワーについてはそうはいかない。

 今求められているのは、空中を舞う多数の鳥を薙ぎ払い、追っ払うことである。地表近いところを飛ばしても意味がなく、高く遠くまで飛ばした上で、ぐるっと旋回して手元に戻したいところなのだが、それには相当なパワーが求められる。パワー系ではないディアナでは限界があるのだ。


 (せっかく、これ以上ないと思える武器を入手できたのに…。それもこれも投げてナンボの投擲武器に過剰な装飾なんか施してくれやがったせいなんですけど………!)


 逆恨みを炸裂させるあまり、装飾をむしり取ってやろうかと考え始めるディアナだが、生憎今はそんな猶予はない。

 チャクラムを奪い返そうとこちらに向かってくる衛兵は、今のところシンディが足止めしてくれている。チャクラムを届け終わったザイも人身御供になりに戻って行ってはくれたが、まあザイは二人引き付けてくれれば御の字ってところだろう。


 民衆は、道沿いの店舗などに押し寄せ、道路上は将棋倒しが起こりそうな程の人の多さではなくなってきているが、代わりに店舗内がすし詰め状態になっているらしく、あちらこちらで悲鳴が響き渡っている。超過密状態での転倒は圧死に繋がりかねず、悠長に構えてもいられない。


 必死に打開策を考えるディアナを見て、ラキルスが口を開いた。

 「義兄上、ディアナの代わりに投げていただけませんか?」

 「…俺が?いや、ただ力任せに投げることは出来るが、俺のコントロールじゃどこに飛ぶかわからんぞ?」


 ジークヴェルトは、筋力に物を言わせて魔獣をぶった斬る討伐スタイルを取っており、離れた敵の対処はディアナら遠距離攻撃のスペシャリストにお任せしてきたので、投擲系の武器の扱いは素人よりはマシくらいなレベルだった。


 「ディアナ、矢をUターンさせるときみたいに、空中で何かを複数回当てることで、義兄上が投げたチャクラムをコントロールすることは出来ないか?」

 「! なるほど…やってみる!」


 重たいものを高く遠く飛ばすことに比べたら、既に飛んでるものの行き先を操作することの方が、ディアナには遥かにやりようがある。ジークヴェルトのパワーが籠ったものを外部からの力でコントロールするには、相当数当てる必要はありそうだが、ディアナならやれないことはない。


 「…けどわたし、投げられるものって乾燥豆しか持ってきてないんだった…」

 「豆じゃ馬力が足りねえな…。石も殆ど落ちてねーし…」


 王都の道は舗装されていることが多い。いまディアナ達がいる場所も景観を意識した街並みになっており、地面にもレンガが敷き詰められていた。そんな小洒落た道には、石なんか碌に落ちていない。


 するとラキルスは、地面を指さしながら言った。 

 「義兄上、このレンガ、ハンマーで割れないですか?」

 「!」


 目を丸くして顔を見合わせた辺境伯兄妹は、瞳を輝かせながら同時にニヤリと笑った。


 「言うことがだんだん豪快になってきたねラキ!」

 「おかげさまで日々鍛えられてるからね」

 「はっはっはー!任せろやってやるぜ!」


 ジークヴェルトは、嬉々として巨大ハンマーを振るった。ナックルの、肉球で言うところの掌球の部分が邪魔をしてるので、利き手でしっかり握り込むことはできないが、ジークヴェルトはその分を補強するために、助走をつけた上にジャンプして出来るだけ高い位置からハンマーをレンガに打ち下ろした。

 ドオォォ―――――ン!!という地響きに、再び鳥たちが錯乱しているが、レンガは見事に砕け散り、ほどよい破片が量産された。投げ切ってもまた砕けばいいので玉切れの心配はほぼなくなったと言える。


 「お兄様、投げられる?」

 「手は動かしにくいがコントロールは二の次だしな!まあイケるだろ!」

 「じゃあこれお願い!」


 ジークヴェルトが、ディアナから手渡されたチャクラムをどう投げるか考えている少しの間に、ラキルスはディアナに持っていたものを手渡した。

 「ディアナ、これ使えるか?」


 ラキルスが差し出して来たのは、ラキルスがここに来たとき顔を隠すために着けさせられていた、ディアナの隣国土産であるどっかの宗教のものらしいお面だった。

 ただしお面は、左右の耳紐の部分にそれぞれ別の紐が括りつけられて一メートルほど垂れ下がっており、片方の紐の先は腕が通せるくらいの輪っか状に結ばれている。

 ちなみにこの紐は、王都に放つ直前までキツネ型魔獣の手足と口を縛っていたものである。再捕獲時は鳥籠に直接掬い入れたためまだ縛ってはおらず、鳥籠の近くに置かれていたので拝借させて頂いた次第である。


 それを目にした瞬間、辺境伯兄妹は声を揃えて叫んだ。

 「「これは…!投石器(カタパルト)………!!」」

 「みたいになればと思って」


 投石器(カタパルト)とは、石などを遠くに飛ばすための道具である。人間のエネルギーを、効率よく運動エネルギーに変換することにより、素手で投げるよりも強く遠くまで飛ばすことができるようになる。

 ラキルスが手近にあったものでちゃちゃっと作った簡素な即席品だというのに、辺境伯兄妹二人とも、よく一目で見破ったもんだと感心していいと思うが、そこらへんは流石辺境伯家。武器に精通してるからこその観察眼なんだろう。

 それよりも、なんとなく聞きかじった程度だったであろうそれを、持ち前の頭脳により原理を理解して手際よく作り出したラキルスを評価してやってほしい。


 「うわあぁラキ凄い―――――!!」

 「おおお!よく知ってたなあ!」

 「使えそうなら良かった」

 

 ジークヴェルトのパワーに負けない馬力も得ることができたので、これでチャクラムのコントロールは可能だと断言できる。あとは実行に移すのみ。

 「どおりゃあああ―――――!!」

 力いっぱいチャクラムを斜め上空に向けてぶん投げたジークヴェルトに続き、

 「聞こえてるかわかんないけど、みなさんアタマだけは守ってね―――――!!」

 と叫びながら、ディアナはラキルスお手製投石器(カタパルト)を使って次々にレンガの破片を遠投しはじめる。

 

 お面の窪んだ部分にレンガの破片をセットして下に垂らし、一方の紐の輪っかになっている部分を右手首にかけ、もう一つの紐の端を、手首に紐をかけているのと同じ右手で持ち、遠心力を利用して振り回すことで勢いを加えてリリースする。リリースの際に、手首に輪っかをかけていない方の紐を放すことでレンガは飛んでいく。コントロールは、振り回す角度とリリースタイミングにより行うことになる。

 もちろんレンガの形は様々なので、大きさや重さ、形状によって飛び方は若干変わる。ディアナは握った瞬間に形状を把握しては的確に投げまくり、一つも外すことなく次々とチャクラムに命中させていった。


 チャクラムは鳥の大群を追尾するかのように旋回し、鳥たちは「固まって飛んでいると狙われる!」とでも感じたのか、次第に四方八方に散り始め、一部を除いては遠方の空へと逃げ去って行った。

 攻撃的な一部の鳥だけはまだキツネ型魔獣を狙っているようだが、不気味なほどの大群でなくなれば、一気に脅威ではなくなる。


 チャクラムに当たったレンガは、チャクラムに当たった時点で粉々に砕けるものが多く、周辺一帯に欠片が落下してきてはいるものの今のところ大きな被害には発展していないようだ。

 

 ブーメランのように旋回して戻って来たチャクラムを、ジークヴェルトが真ん中に腕を通してキャッチし、同一方向に腕を回すことで勢いをいなして衝撃を和らげ、勢いが収まってきたら再び投じ、まだ付近にいる鳥を更に追い払う。

 方々に散った鳥たちはもうこの辺りに戻っては来ず、そのまま飛び去ったため、空はだいぶ明るさを取り戻して来ていた。

 まだ残っているのは、魔獣を自分たちの縄張りから排除しようと機を狙っている攻撃性の高い鳥のみになったと言えそうだ。


 「どうするディアナ、もう一回いっとくか?」

 「空はもう大丈夫そうかな…?」

 「んじゃ次は、まだ戦意喪失してねえ骨のあるヤツらの相手だな!」


 今まで鳥たちは、自分たちを付け狙って来るチャクラムから必死に逃げ回ることが最優先だっただろうが、そのチャクラムから一度解放されれば、本来の目的を思い出すだろう。つまり、魔獣を排除しようとしてくるはず。

 そして、そんな鳥たちの敵意を察知したキツネ型魔獣は、威嚇しているのか唸り声を響かせている。まったく構ってちゃんでいけない。


 ジークヴェルトは、自由のきく左手でチャクラムの盤面を挟むように持つと、鉄扇を振るうかのように、キツネ型魔獣に襲い掛かってくる攻撃性の高い鳥を薙ぎ払っていく。


 別の方向から狙ってくる鳥は、ディアナが乾燥豆を指で弾いて的確且つピンポイントに対処していく。

 もちろんディアナは連射も可能だが、一羽一羽対処してたら効率が悪いので、豆を食らった鳥が出来るだけ近くを飛ぶ鳥を巻き添えにするように計算しながら打ち込む。


 しばらく続けるうちに、襲い掛かって来る個体もみるみると数を減らして行き、まばらに空を行き惑う鳥がまだ残ってはいるものの、概ねはどこかに捌けていった。

 空を覆うものが消えたことを察した人々も徐々に落ち着きを取り戻し始めている。


 「もう大丈夫そう…かな?」

 「そうだな。んじゃ俺はナックル外すことに専念するぞ」

 「お兄様、よくその手であんだけ暴れたよね…」

 「全力は出せなかったけどな!」


 ジークヴェルトが、ラキルスから『指輪が外せなくなったときの対処法』を伝授してもらってナックルを外している間に、じわじわと人々が外に出て来はじめる。

 いつも明るく賑わっている王都の表通りは、今は人も疎らで、地面にはところどころ穴が空いており、洗練された街並みに影を落としているかのようだった。

 

 ちなみに、ナックルを外した後、ジークヴェルトは神聖教の皆さんにしれっとチャクラムを返却した。

 「おうありがとな!助かったぜ!」と、にぱっと笑って返されたそれは、背面にレンガを当てられまくったせいでボコボコに凹んでおり見るも無残な状態になっていたのだが、「装飾面は無事だ!宝石は一つも欠けてねーぞ!」と主張するジークヴェルトの笑顔の圧が恐ろしくて、神聖教は何も言えず受け取るしかなかったらしい。



投石器、でんじろ〇先生の実験動画めっちゃ見ました。

でんじろ〇先生はチャクラムも投げていて、

もちろんそちらの動画もがっつり見ました。

第2章では足括り罠の仕掛け方動画(イノシシ用)とかも見てました。

完全に怪しい人ですよね………

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