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【コミカライズ】愛するつもりなぞないんでしょうから  作者: 真朱
第3章

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14. 脳筋とはビジネスである。


 ディアナの父、辺境伯は心の中で独り言ちた。


 (面倒くせえ…)んである。


 大事なことでは全くないが、心底思っているのでもう一度言っておきたい。


 (面倒くせえぇぇ!!)んである。


 駆け引き?知ってる。

 体裁?協調?知ってる。

 退かなきゃならない場面もある。心底嫌でも従わなきゃならないこともある。知ってる知ってる。


 でも、どう言い繕おうが、面倒くせえもんは面倒くせえんである。



 脳筋でお馴染みの辺境伯家ではあるが、こう見えて最低限の情報収集くらいはしており(※最近は長女・シンディに丸投げしている。嫁ぎ先の伯爵家(ザイんち)が得た情報をしれっと垂れ流してくれる)いかに辺境伯領の防衛ラインがカンペキであろうとも、西の隣国から魔獣が流入してくる可能性が高まってきたことは既に把握していた。


 そして予想は出来ていたが、国から辺境伯家に応援要請が届いた。

 「西の隣国に接している領地にて、魔獣と思しき害獣による人的被害が報告されており、対応に苦慮しているため、協力して欲しい」と。


 「んなもん西の隣国に文句言えや」と、当然の返しをしたところ、国からの使者は、心底いやらしい物言いをしてきやがったのだ。


 「我々は、その魔獣らしき害獣は西の隣国から流入したものと確信しているが、証拠を掴まないことには、西の隣国にシラを切り通されてしまう可能性がある。そうなると辺境伯家が責任逃れをしているんじゃないかといった疑念が生じてくる可能性も出てきちゃうけど、そんなの不本意でしょ?」「辺境伯家も、この国の(いち)貴族家として、他家と円満な関係を築いておくのも大事なことなんだから、協力してあげた方がいいんじゃない?」と。


 (うっぜえぇ…)


 こちとら職務は完璧に全うしている。

 魔獣には空を飛ぶ種だっているのだ。それを、碌に目も利かない夜間であろうとも、おそらく独自の進化を遂げたんであろう五感でもって察知し、一匹たりとも漏らすことなく殲滅しているってだけで、他の何が足りなくとも文句を言われる筋合いなどない。つべこべ言うならてめえでやりやがれ。


 だが、王都のお貴族様たちは、自分たちの面目を保つことにばかり意識が向いていて、辺境伯家の主張など胸に響きやしない。辺境に生まれたのが運の尽きくらいに思ってやがるんだろう。


 「貴族は貴族らしく」と主張するのであれば、辺境伯家とて高位貴族。剣を持たずに社交に明け暮れる権利だって当然あるはずだが、それは決して認めやしない。「辺境伯家は他の貴族とは異なるお役目を賜っているから」などと線を引く。

 ならば、「辺境伯家が他の貴族家と同じ物差しで測られること自体がおかしい」と、声を大にして言わせてもらおう。

 それなのに、自分たちにとって都合が悪くなると、数の多さを笠に着て、あたかも自分たちが正しいかのように主張してきやがる。

 

 (あ~うぜえ)

 

 だから辺境伯は、当主になった時に、今後は『脳筋』として生きていくことを決断したのだ。


 辺境伯家が他家に迎合してやる謂れなどない。

 他家の声を体よく撥ね退けるには、『脳筋』という分かりやすい先入観はまさにうってつけだった。

 「こっちは脳筋なんだから、お貴族様のルールなんざ知ったこっちゃねえ」と家としてのスタンスを固め、それを貫き通すことで、『辺境伯家の運営方針』を他家に刷り込むという長期的戦略を取ったのだ。


 そう。

 辺境伯閣下にとって脳筋とは、(これ)即ちビジネスなんである。


 (辺境伯家(ウチ)のビジネススタイルにいちゃもんつけてきやがるとは、実にいい度胸だ。売られた喧嘩は買うぞ。俺ではなく辺境伯家(ウチ)のガチ脳筋がな…!)


 辺境伯家の子供たち、特に嫡男・ジークヴェルトがガチもんの脳筋に育ったのは想定外と言えば想定外だったが、辺境伯家で生きる分には大した問題ではない。魔獣が絶滅でもしない限りは辺境伯家は戦い続けなければならないんだから、真の脳筋であろうとも、弱いよりは強い方がいい。魔獣を倒せれば問題なし。よし解決。


 辺境伯家の運営面は嫁に頼らなければならなくなるが、大変ありがたいことに筋肉にはニッチなニーズがある。『カオよりも知性よりも、とにかく筋肉』というマニアが、いつの時代も必ず一定数存在する。辺境伯家の男は、王都の腑抜けたなんちゃって騎士たちとは比べ物にならないレベルの上質な筋肉を誇っているから、一定の層には間違いなく刺さる。

 辺境伯家は特殊な環境下にあるおかげで、領地経営と呼べるほど難しいあれこれを行う必要はなく、人並みの執務能力があってくれれば何ら問題ない。嫁候補が一人も見つからないってことはまずないのだ。


 だから長男・ジークヴェルトに施す教育は、「都会の女性にとっては恐怖でしかない魔獣が出没するこの辺境に、嫁に来てもいいと思ってくれる途轍もなく有難い女性のことは、めっっっちゃ大切にしろ!!」ってことを叩き込むのみだった。

 自分は強面でオツムも弱いクセに、「可愛い女の子じゃなきゃ嫌だ」とか「頭のいい子がいい」とか傲慢不遜なことをぬかすなんて性根が腐っていると、物心つく頃からゴリゴリ刷り込んでおいたおかげで、ジークヴェルトは「嫁に来てくれるだけで至高の存在」と思えるように仕上がった。単細胞はラクでいい。おかげで嫁はすんなり見つかったし、仲良くやってくれている。


 娘の夫たちにも恵まれた。

 ちょっと「ぁあん!?」と言ったダケでガクブルしやがる王太子とは異なり、しっかり肝が据わっている。二人ともヒョロいし弱いが、武力以外のジャンルで抜きん出た能力を誇っており、自分の活かし方を心得ているところもいい。

 そして、普通の貴族令嬢とは明らかに異なる『辺境伯家の娘』に対して、変に色眼鏡をかけることなく真正面から向き合っているところが何よりいい。辺境伯家の日頃の行いが招いた良縁と言えよう。


 辺境伯家の子供たちは、世間一般の『貴族家の子女』よりも遥かに自分を持ち、自立しており、親馬鹿と言われようとも恥じるところなど何一つありはしない。


 ここはひとつ、頼もしい子供たちに託そうではないか。


 そもそも、この国は魔獣に関する意識と理解が低すぎる。

 他国では辺境伯領以外の領地にまで魔獣が入り込むことは避けられないものとして、各領地それなりに対策しているというのに、この国は、何故か呑気に「魔獣は全て辺境伯家が何とかするもの」と思い込んでいる。

 だが、辺境伯家は本来、辺境伯領…つまり自領を守りさえすれば良いんであって、全魔獣を漏れなく討伐する義務など負っていない。故に他の領地も『自領の防衛は自分達でやらなければならない』のだが、そんな極々当然のことを理解していないらしい。

 ぼちぼち、「自衛しなければやられるだけ」という現実を学んでもらう必要があるだろう。


 多少の被害は、自衛の意識を欠いていたヤツらの自業自得として、やっちまえ脳筋たち。思う存分暴れて来い。

 ラキルスという良いストッパーも加わったことだし、あのメンツが揃えば、まあ「辛酸を嘗めさせられた」で片づけられなくもない範囲には収めて来るだろう。たぶん。収められなくても知らん知らん。

 

 「では当家から、嫡男・ジークヴェルトを派遣しよう。いま派遣できるメンツの中では最高ランクの戦力だし、他家との付き合い方を学ばせるという意味でも適任だろう」


 王都でのジークヴェルトの評判を聞いているせいか、国からの使者は若干ひきつったような顔をしていたが、知ったことではない。


 (そっちこそ、辺境伯家との付き合い方ってもんを、とくと学ぶがいいさ)


 残念ながら辺境伯は、地位にも土地にも固執していない。

 責任?取る取る。いつでも取る。取るつもりないってヤツが国王を恫喝なんかするワケがない。爵位も領地もいつでも返還するから、まあ受け取るがいい。

 何せ辺境騎士たちは、己の腕一本で生きていけるだけの実力がある。あの地に噛り付かなくても、傭兵団として他国に活路を見出せば、喜んで領民もろとも丸っと受け入れたいと申し出る国がいくらでもある。


 (そうなったときに困るのは、果たしてどっちだろうな?)


 辺境伯は、口許だけで静かに笑った。

 国からの使者曰く、「呪詛をかけられているようにしか感じられなかった」そうだが、まあ、あながち勘違いとも言えないかもしれない。

 好きなような解釈するがいいさ。



 ディアナの父・辺境伯。

 国王陛下から覇王と称されている男。

 実際のところ、もし彼に権力欲があったなら、王位簒奪など余裕で成し遂げられるだけの武力も頭脳もカリスマ性も有している。

 

 しかし、彼がそれを目論むことはない。



 だって、面倒くせえから。



漫画のパパがめっちゃカッコイイのです…。

真朱イチオシです。

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