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【コミカライズ】愛するつもりなぞないんでしょうから  作者: 真朱
第3章

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12. 伝説の脳筋、王都に立つ①


 ランバート侯爵令嬢が帰って行き、公爵家の若夫婦とその義兄がのんびりお茶しながら駄弁っていたところ、執事が難しい表情を浮かべながら顔をのぞかせた。


 「ラキルス様、少々よろしいでしょうか」

 「どうかしたのか?」

 「はい。ただいま騎士団から連絡がございまして…」

 「騎士団から?何か不穏な事態が?」

 

 平和な王都における『騎士団』こと王立騎士団とは、辺境騎士団のように魔獣との戦いに明け暮れることはなく、治安や秩序を司る保安組織に近い。犯罪者や不審者の取り締まりが主な仕事であり、その騎士団からの連絡ということは、基本的に犯罪的な意味で好ましくない事態が発生していることを意味している。


 「何でも、ハンマーのようなものを担いだ男性が王都を闊歩しているとの通報があり、騎士団が駆けつけたところ、その者が我が公爵家の親族を名乗っているそうでして…」

 「うわ~…。来ちゃったのか…」


 ラキルスが親族の顔を思い浮かべるまでもなく、ザイが間髪を容れずにぼそりと零した。


 「…先輩?お心あたりが?」

 ザイの呟きに反応して顔を向けたラキルスに、ザイは呆れたような表情を隠さなかった。

 「なに言ってんだよラキルス…。こんな脳筋丸出しなの、我らが嫁ん家しかねーじゃんよ…」

 「ああ…確かに」

 

 王都で「騎士団出動」と聞いたら犯罪方面だという意識が強すぎたため、ラキルスは真っ先には思い至らなかったが、言われてみればそれしかない。


 「義父上…ではなさそうな印象ですね」

 「そうだね。やりそうなのはお兄様かな?」

 「完全にジークさんだろ」


 王都で『辺境伯家は脳筋』という先入観を決定づけるに至った元凶、長男・ジークヴェルトの王都凱旋であった。



 「おう、お坊ちゃん!久しぶりだな!ちゃんと連絡届いてよかったよかった。公爵家の場所知らねーし、道行く人に声かけたら不審者扱いされるしで、王都は相変わらずわけわからんな」


 街にある騎士団の駐在所に足を運んでみると、筋肉隆々のゴツくてデカい体に眼光鋭い強面の男性が、どっかりと椅子に腰かけていた。

 椅子に座ってはいるが、『椅子ありのヤンキー座り』と表現すればご理解いただけるだろうか。足をガニ股に開き、膝に各々肘を乗せた、切り株か何かに腰かけているようにしか見えない、良く言えばワイルド、悪く言うと粗野な座り方。

 間違いなくディアナの兄、辺境伯家の跡取り息子・ジークヴェルトがそこにいた。


 「ご無沙汰しております義兄上」

 「おう!ラキかディアナを呼んでくれっつーたら、ラキなんちゃら様のことかとかしつこく確認されて参ったぞ。ディアナ、おまえの旦那の名前なんだっけ?」

 「ルールル ルルル ルールル ルルル…(※ここまで小声)ラキルスだよお兄様!」

 「あ~そうだったそうだった。いや~長い名前は覚えらんねーよなあ。ザイは短いから覚えられたんだけどな。ところでディアナ、『ルールル』ってのは何だ?」

 「それは聞かないお約束なのよお兄様」

 「じゃあ聞かないでおくか」

 

 いや。ここで「『ラキルス』なんて僅か四文字ですが…?」とか言ってはいけない。

 そして、「貴方の名前(※ジークヴェルト)のがよっぽど長くないですか?」とかも決して言ってはいけない。

 ジークヴェルトもディアナも、そこには何ら疑問を抱いていない以上、ツッコんだところでスルッと流されていくだけなのだ。腹落ちしていなかろうが兎にも角にも、ジークヴェルトがラキルスの名前を覚えられない理由は「長いから」ってことで、もういいのだ。


 それはさておき、ラキルスは義兄・ジークヴェルトの横に立てかけられている巨大なハンマーの方が気になっていた。

 「ハンマーを()()()男性」と聞いた瞬間から、金槌サイズじゃないんだろうなと想像はついていたが、もはや酒樽に持ち手を付けたのかと思いたくなるようなサイズ感である。

 王都に持参するにあたって、何でわざわざコレをチョイスしたのか。そりゃこんなもん持ち歩いてたら不審者と見做されるに決まっている。


 「とりあえず場所を変えましょう。手続き終わりましたから、公爵家の方へどうぞ」


 兄妹でまったり駄話している間にも、ラキルスはさくさくと引き取り手続きを終えていた。

 ハンマーのことも切り込みたい思いはあるが、会話中どこに極秘情報が紛れているものやら見当がつかない。ジークヴェルトとディアナはそういうところが危ういように感じるので、迂闊に質問するわけにもいかない。

 特に、ジークヴェルトの言動は読めず、暴走されたら対処のしようがない。いまザイは、ラキルスやディアナとの接触を外部に伏せるべく公爵家に残っており、この場には同行していない。正直なところ心許なさすぎる。

 わざわざ危ない橋を渡る理由などないのだ。速やかに撤収をはかるに限る。ラキルスの判断に迷いはなかった。



 「お兄様、お姉様は?」

 公爵家へ向かう馬車の中で、ディアナが問いかけた。

 ジークヴェルトはきょとんとしたような表情を浮かべている。


 「だいぶ会ってねーが、シンディがどうした?」

 「会ってないの?お姉さま、お父様に会いに行ったはずなんだけど」

 「じゃあ入れ違いになったんだな。俺は会ってない」


 ディアナは、てっきりシンディが辺境伯領を訪れたことにより何某かの対策が練られた結果として、ジークヴェルトが派遣されてきたものとばかり思っていたのだが、どうやらそうではないようだ。

 では何故、ジークヴェルトは一人遥々王都までやってきたのかと言えば、こういうことらしい。


 一月くらい前、辺境伯領にちょっと厄介な魔獣が出没したそうだ。手古摺りつつももちろん追い詰めたのだが、(すんで)のところで魔獣の森に逃げ込まれてしまったのだという。魔獣に回復する間を与えずに仕留めるべきだと判断した辺境騎士団は、ジークヴェルトら数人で魔獣の森の内部まで攻め入ったんだそうだ。


 尚、魔獣の森はどの国にも属しておらず、人体に影響のある『瘴気』的な何ぞやが漂っているとか、磁場の影響か何で方向がわからなくなるとかいったことはないため、踏み入ること自体には問題はない。

 ただ、そこは魔獣の本丸なのだ。何が起こるか予測不可能であり、危険性が極めて高いため、誰しも好んで入りたがらないってだけのことである。


 ちなみにディアナん家だってたまにしか入らない。あまり入り浸ると、周辺国から『魔獣の森はディアナん家の管轄』みたいに思われかねず、面倒なことになるのは目に見えてるからである。



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