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【コミカライズ】愛するつもりなぞないんでしょうから  作者: 真朱
第3章

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03. 公爵邸への侵入者


 ってことで、ランバート侯爵令嬢から嬉しくない情報を仕込まれて公爵家へと帰って来たディアナは、公爵家の敷地内に入るなり有り得ない気配を察知し、愕然とした。


 (―――――魔獣がいる………!!)


 辺境伯領ならいざ知らず、ここは王都の公爵邸である。

 魔獣がいるなんて有り得ない。

 気配がするということは生きてるってことを指す。生きた魔獣が王都に出現するなんてこと、いま生のある世代が生まれる前まで遡らなければ記述が見つけられないような、歴史的大事件に違いない。


 そもそも、こんなところに魔獣がいるってことは、辺境伯家が魔獣を取り逃がした上に、辺境から相当離れた王都に達するまでの間にすら対処できなかったということになる。


 「嘘でしょ……!?」


 ディアナがランバート侯爵邸から帰宅する道中、王都はいつも通り、とても平和で落ち着いていた。

 王都の公爵邸は、王都でも中心部、王城からそれほど離れていない場所にある。人通りも多く、誰にも目撃されずに魔獣がここまで到達したとは考えにくい。

 こんな真っ昼間に、王都のど真ん中に魔獣が出現したというのに、なぜ騒ぎになっていないのだろう。誰もその存在に気づいていないということだろうか。


 まあ確かに、魔獣は必ずしも異形なわけではなく、見た目で言えばそこそこ可愛い種類もいないわけではない。パッと見じゃわからない可能性はある。

 だが、魔獣は多かれ少なかれ人間を襲う。人間を襲わないのであれば、それは只の動物であって、魔獣とは呼ばないのだ。

 誰か襲われたのであれば騒ぎが起こらないわけはないが、バレないように襲うことが出来る魔獣が現れたということであれば、騒ぎが起こっていなくても不思議ではない。


 辺境伯領から王都まで、その存在を察知させることなく移動することが可能な魔獣―――――。

 ディアナたちが隣国訪問中に出くわした、体を乗っ取って来る寄生虫に似た生態を持つアレのような、非常に見破りにくい新種が出現した可能性が高いってことになるのではないだろうか。


 だって、既に公爵邸の敷地内に入り込まれているというのに、公爵邸は静けさを保っている。

 公爵家の誰かの姿形をしていたとしたら騒ぎになるわけなんかないのだから、もうその線が強いと考えてかかろう。


 (とにかく至急、魔獣を確保しなきゃ―――――!)

 ディアナは気配を辿って、公爵邸内を全力で走りだした。


 対象は、ゆっくりと公爵家の本邸を抜け、別棟の方向に移動しているようだ。

 その近くには誰か人間がいるように感じる。

 巧みに気配を消しており、ディアナですらほとんど感知することができないのだが、恐らく一人。

 自ら気配を消してるってことは、魔獣から人質にとられているということではないはずだ。


 (もしかして、辺境伯家の誰かが魔獣の近くに張り付いてるんじゃない…?)


 楽観視するわけにもいかないが、そうあって欲しい。

 とにかく一刻も早く追いつこうと気配を追って疾走していたディアナは、義父である公爵家当主の執務室の前に差し掛かったところで、ぴたりと足を止めた。


 (え…っ隠し部屋の中に誰かいる………!)


 ―――――そう。

 ここ、王都の公爵邸には、隠し部屋が存在している。

 ディアナは直接その存在を教えて貰ったわけではないが、説明されなくても、音の反響や空気の流れなどから、義父の執務室の中、執務机の背面に隠し部屋があることは初見の時点で看破していた。


 隠し部屋の存在は厳重に秘匿されているものだ。オープンになっていたら、そんなもの隠し部屋とは言えない。

 義父は間違いなく知っているとして、その存在はラキルスにすら明かされているのか微妙なクラスの、正にトップシークレットのはず。

 そんな場所に人がいるなんて、どう考えてもおかしい。


 (どういうこと…?何が起こってるの……?)


 隠し部屋の中の気配は、義父のものではない。もちろんラキルスでも、公爵家の使用人などの気配でもない。

 外部からの侵入者で間違いないだろう。

 外部の人間に公爵邸の極秘情報が漏洩してるってだけでも由々しき事態だが、容易く潜入を許しているのも大問題だ。


 そして同時に現れた魔獣。

 この侵入者と無関係だとは考えにくい。

 

 隠し部屋の中の人は、ディアナが部屋の前で止まったことに気づいているのかいないのか、動き出す気配を見せず、沈黙を保ち続けている。

 だからと言って、こいつを放ったらかして魔獣を追いかけるわけにもいかない。

 いや、何よりも優先すべきは魔獣のような気もする。


 (ひょっとして、わたしに魔獣を追いかけさせた後で動き始めるつもりで、通り過ぎるまで大人しく待ってるの…?)

 

 身を潜めているにしては気配が消せていないが、素人の気配でもない。

 そういえば、何となく知ってる気配のような気がしないでもない。ぱっと「あの人だ」とは思い当たらないけど。


 「なにかの罠………?」


 ディアナ以外の人間に、魔獣の対処にあたらせるわけにはいかない。魔獣のところへは、どうしてもディアナが向かわなければならない。

 かといって、秘匿されているはずの隠し部屋への侵入者の対応も、誰かに託すことが難しい。

 隠し部屋の存在を勝手にオープンにしていいのかも分からなければ、侵入者の力量もはっきりしないのに守衛さんなりに丸投げして大惨事を招くことになりでもしたら、ラキルスに申し訳が立たない。


 「あああもう…!どうしたらいい………?」


 動くに動けずに、じれじれしていたディアナの許に、天から救いの神が舞い降りる。


 「ディアナ?こんなところに立ち止まって、どうかしたのか…?」

 「ラキぃぃぃっ!!」


 頼もしい旦那さまのご帰還に、ディアナは歓喜の雄たけびをあげた。


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