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【コミカライズ】愛するつもりなぞないんでしょうから  作者: 真朱
第2章

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14. 信じる者は救われ…ん?


「ねえ、ここって魔獣がめちゃめちゃ出没する領地だってこと知ってるよね?わたしの旦那さま残念ながら物凄く弱くって、魔獣と戦ったことなんかないんだけど、その体でどうするつもりなの?」


すると乗っ取り犯は、びくっと体を震わせて、ディアナの顔を凝視した。


「お、おまえだって番が魔獣に襲われたら困るだろう!?」

「そりゃ守りたいのはヤマヤマだけど、わたしだって魔獣の相手をしながらだったら、自分の身を守るだけで精一杯だし…」


ディアナの返答が想定外だったのか、乗っ取り犯は驚愕に目を見開いた。


まあそれは真っ赤な大嘘なのだが、乗っ取り犯はディアナがどの程度戦えるのかを殆ど把握していないはずだから、ハッタリかまし放題で全然構わない。


するとその時、少し先の茂みのあたりから、突然ガサッと音が鳴った。割と大きな音を立てながら、何かが茂みを移動していく。


「なっ…なんだ………?どどど動物…か………?」


魔獣の可能性を感じているのだろう。乗っ取り犯は慌てて身を起こし、茂みを凝視している。警戒するあまり、茂みから片時も目が離せないようだ。

その隙にと、ディアナが指先を素早く動かして何かしていることに、乗っ取り犯が気づいた様子はなかった。


しばらくして音が止んだと思ったら、今度はその先の木の上の方から、ガサッと音が鳴った。


ディアナが、手近にあった足くくり罠を投げつけてみたのだが、何ら反応はなく、命中したのかしなかったのかすらはっきりしない。足くくり罠は木にひっかかり、吊り上げるために罠に括りつけてあったロープだけが、だらりと垂れ下がっている。


「襲ってくる気配はなさそう…。小動物だったのかな…?」


ディアナの呟きに、乗っ取り犯は、あからさまにほっとした表情を浮かべた。


が、その次の瞬間には再びガサッと木の上から音が鳴り、ディアナはポケットから折り畳みナイフを取り出して投げつけながら、音の鳴った木に駆け寄る。

しげしげと木を見上げているが、その後はしんと沈黙を保ち続けている。


「移動したみたい………」



だが、間を置かずに、先ほどの木から少し離れたあたりから、何かが落ちたかのようなドンという音が鳴った。そしてまた茂みを移動していく。


「ひっ!?」


飛び上がるほどビビり倒している乗っ取り犯には構わず、ディアナは手にしていた松明を放り投げると、弓矢を構えた。


「移動が速い…!近づいて来られたら対処できないかも…!旦那さま、そんなところにいたら狙われちゃうよ!」


ディアナの叫びに、乗っ取り犯は震え上がり、慌ててディアナのいる方に駆け寄ってくる。


その間にも、ディアナは続けざまに何本も矢を射った。

そして最後の一本を手にしたとき、「あいたっ」と声を上げた。


「慌てすぎて鏃に触れちゃった…。指先切れた…」


じっと人差し指を見つめるディアナを前にして、乗っ取り犯の目の色が変わる。


ディアナの指先には血が滲んでいる。

怪我を負わせられるような隙など一切なかったディアナが、傷を負っている。


ラキルスの姿をした乗っ取り犯は、すぐさまディアナの人差し指に手を伸ばしてきたが、ディアナは避けようとはしなかった。

ただ、右足を力強く振り下ろそうとした。


ディアナの行動が意味を成す前に、ラキルスの手はディアナの血の滲む指先に触れ、その瞬間に乗っ取り犯は、ラキルスの体から離れ、ディアナの体に移動した。


だが、振り下ろしかけていた足の動きを止めることは叶わず、そのまま、地面を強く踏みつける形になり―――――その足は、そこに仕掛けられていた足くくり罠を踏み抜いていた。



それは、ディアナとラキルスが、逃亡したと思われた赤髪さんを捕獲するために、最初に仕掛けた一箇所目のものだった。

ディアナは、既に仕掛け終わっていた一箇所目の罠の場所まで、さりげなく移動してきていたのだ。


足くくり罠に足を取られたディアナの体は、抵抗する間もなく、足から木に吊り上げられる。

右足を罠で括られ、その足から木に引き摺り上げられた体は、頭が下になった状態でぶらりと空中に揺られていた。

さながら、タロットカードの『吊るされた男』のように。


「なっ………?」


状況が呑み込めていない乗っ取り犯(現在はディアナの体)は、吊られた体勢のまま呆然としている。


だが、間を置かず、自分の体を取り戻したラキルスが叫んだ。


「ディアナ!!火が!!」


はっと我に返った乗っ取り犯は、パチッという何かがはじけるような音と、足の方から伝わってくる微かな熱に気づき、恐る恐る足先へと目を向けてみる。

ディアナの爪先の少し横あたりから、火の手が上がっている。


そこには、ディアナがついさっき物音に反応して投げた、仕掛けるために持ち歩いていた方の足くくり罠があった。罠から垂れ下がったロープに、ディアナが放り投げた松明がかすり、引火したのだ。


かすったくらいでロープに引火するかどうかは微妙なところだろうが、ディアナはロープに仕込みをしていた。

魔獣かもしれない物音にビビった乗っ取り犯が、ディアナから目を離している隙に、ロープの縒り目の至るところに、ベルトポーチに詰め込んであった乾燥豆を捻り潰しつつ捻じ込んでいたのだ。


この豆は油分を含んでおり、捻り潰すことで油が滲みだし、引火しやすくなる。


そして放り投げられた松明は、テキトーに投げ捨てたように見えていても、そこはディアナ。もちろん狙いすましてやっている。垂れ下がったロープに沿うように滑り落ちていった松明は、目論見通りに乾燥豆に火を移した。


「ひいいいぃぃっっ」


空中に吊り下げられたまま、火から逃れようと身を捩る乗っ取り犯だが、ぶらんぶらんと揺れるだけで、逃げる先はない。


「ディアナ!!」


ラキルスは、ディアナを助けるためにロープを何とかしようと、木によじ登ろうとしたが、どこからともなく現れた赤髪の三男さんによって制止された。


「ラキルスさん、少しだけ待ってください!」

「でも、もう今にも火が…!」

「ディアナさんからの伝言です。『矢が返ってくるまでは何もしないで待ってて』『その後のことは任せるから』…ですから、もう少しだけ…!」


その言葉に、ラキルスは少し冷静さを取り戻した。


「―――――矢………」


ディアナが、何も考えずに矢を放つはずがない。

なんせ百発百中のチートな腕の持ち主なのだ。無駄射ちなど有り得ない。間違いなく何かを狙って射ったのだ。


木にひっかかった足くくり罠も、(ほう)った松明も、咄嗟の行動などではなく作戦のための布石。


そこに違和感を覚えさせないための裏方を託されたのが三男さんだった。ディアナの指示に従い、茂みを揺らしたり木の上で音を鳴らしたりと、完璧な仕事をしてくれた。


だから、まずはその結果を待てと、

もし目論見が外れたときは、その後のことはラキルスに託すと、ディアナは言っているのだ。



すぐにロープを切り落としたい衝動を堪えながら、ラキルスはディアナが矢を放った方向に目を向けた。


陽の光を受けて、キラリと光るなにかが飛んで来ているのが確認できる。ディアナによって飛ぶ方向を操作された矢が、ブーメランのように返ってきていた。


戻って来るように操作されている以上、何かを狙っている。


…何かもなにも、ディアナ自身に決まっている。

自ら罠を踏み抜いてああして吊るされたのも、あの位置に矢が返ってくるように操作してあったから。


でも、生きて帰ることの重要性を知っているディアナが、安易に、あれを道連れにすることで解決を図るとは思えない。

命と引き換えにする気なんて更々ないはずなのだ。


であれば、直接自分を射抜こうとは思っていないはず。


ラキルスが再びディアナの方に目を向けると、徐々に勢いを増していく炎の上方から、小さい何かが落下してきているのが目に入った。

それはディアナが、足くくり罠の次に走りながら投げた、折り畳みナイフだった。

ナイフだって、ディアナが意味なく投げたわけがない。あれは、今この位置に落ちて来るように狙って投げられているはず。


(―――――ということは、ディアナが返って来る矢で狙っているのは、あのナイフか…?)


ラキルスは、矢とナイフの位置とスピードから、必死に想定される動きをシミュレーションする。

何となく、ディアナの狙いは読めてくる。


矢は、貫くことはできるが切ることはできない。

ディアナは切りたいのだ。

ナイフをかますことで、何かを切ろうとしている。


あの体勢、あのナイフで切れるものを導き出すことは難しくはないが、ラキルスにしてみたら遣る瀬無さしかない。


「狙いは分かったけど、そもそもが粗すぎるだろう……!!」


もう矢はすぐそこだ。

矢が到達するまでにラキルスにできることなど何もない。

走り寄ろうにも矢の方が速いし、何かを投げたりしたところで、ディアナのように確実に命中させる腕もない。


できるのはフォローくらいなものだ。

いったん成り行きを見守って、その後のフォローに注力するしかない。



ナイフがディアナの顔から1メートルくらい横を通り過ぎて行ったとき、返ってきた矢が折り畳みナイフの峰の部分に勢いよく当たり、重力のままにただ下へ落ちていたナイフの軌道が変わった。


横からの力を受けたナイフは回転しながら弾け飛び、垂れ下がっていたディアナのポニーテールに掠った。

切れた髪の毛がぱらりと零れ落ちていく。


…ほんの少量。


(吊るされているディアナの口許が、微妙に引き攣ったような気がする………)


―――――つまりは、目論見が外れたのだろう。


「だから粗いと…」


ラキルスは、項垂れそうになる頭を支えるかのように、額に手をあてて呟いた。




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