表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ】愛するつもりなぞないんでしょうから  作者: 真朱
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/78

13. 会いたい


乗っ取り犯は言っていた。

「南東の民は、血を流さないどころか、近寄ることもままならない」


血を流さないから、体内に入り込むことができない。

傷を負わせようにも、近づくこともできない。

だから、乗っ取っていないというより乗っ取れないでいるだけであって、ヤツが本当に乗っ取りたいのは、生存競争を勝ち抜いて行ける『南東の民』…つまりはディアナんところの辺境伯領の人間の体ってことなのではなかろうか。


それなら、もしディアナに乗っ取れるだけの隙があったとしたら、ヤツはラキルスの体をあっさり手放して、ディアナの体に乗り換えてくるのでは…?



(う~ん…。脳を破壊するわけでもない、弱っちい虫ケラもどきに体を使われたからと言って、別に何てことない気がするんだけど…)



だってヤツには、体のポテンシャルを活かすことができない。

ディアナの体を乗っ取ったところで、ディアナ最大の武器である緻密なコントロールは、感覚や運動中枢による繊細な制御によって為されるものであり、それを発揮できないとあれば、ディアナの体を乗っ取るメリットは正直なところあんまりない。


いくらディアナが女性としてはバッキバキの部類であろうとも、フィジカルだけの勝負なら、鍛えてる男性の方が間違いなく頑丈だと言える。体の厚みや筋肉の密度は、女性のディアナではどう足掻いても太刀打ちできないということは、ディアナの父や兄を見れば一目瞭然ってもんだ。


でもたぶん、ヤツにはそこに考え至るほどの知能はなく、単純に『南東の民』っていう認識のディアナの器に釣られてくれるように思う。



(…とりあえず、体を明け渡してみちゃったらどうだろ…)



中身がヤツなディアナは、フツーの女の子に成り下がるわけで、はっきり言って、何ら恐るるに足りない。

そんなショボいもんを警戒してディアナを守ってるよりも、ラキルスの明晰な頭脳を取り戻した方が、有益な作戦が練れるってもんじゃなかろうか。


―――――だけど


ヤツは、ただただ生き延びることに全身全霊を注いでいるはずだから、お目当ての器をゲットした暁には、その器を奪われないように一も二もなく逃げる。間違いなく逃げる。

そして赤髪さんも感じていたように、全力で身を隠すのだろう。


もし、自分の体を取り戻したラキルスが、逃げ隠れた乗っ取り犯を見つけ出すことが出来なかったとしたら―――――


ディアナは、乗っ取り犯に体を奪われたまま、

…もうラキルスにも二度と会えないまま、

一生を終えることになるかもしれない。


(―――――それはやだな…)


ディアナの中に、滾々と湧き上がって来る思い。



また ラキルスに会いたい



見た目や声がラキルスであっても、中身がラキルスじゃない、あんなんじゃ嫌だ。

正真正銘ホンモノのラキルスがいい。



「ディアナさん!」


そこに、赤髪の三男さんが松明を両手に戻ってきて、一本をディアナに差し出した。

受け取りながら、ディアナは赤髪さんに小声で問いかけた。


「体を乗っ取ってるあいつって、人間を傷つけることに対して、抵抗感とか罪悪感みたいなものを持ってたりなんかしないよね…?」

「そうですね。私が見ていた範囲では、自分の都合以外は一切考えてなかったです」

「そうだよね。ちゃんと見ててくれてありがとう」


ディアナは、体を乗っ取られていた赤髪さんが、ラキルスを切りつけた際に泣き笑いのような表情を浮かべたときから、ちょっと考えていた。


乗っ取り犯の方には、泣きそうになる要素があるようには思えない。

ということは、あの表情は、傷を負わせることに成功した乗っ取り犯の喜びの他に、ラキルスに傷を負わせてしまったことに対する赤髪さん本人の罪悪感が、かけ合わさって生まれたものの可能性が高いのではないか。


つまり、体を乗っ取られている間も、宿主本人の感情が体に介入できるだけの余地がある。



ディアナがラキルスの体をビシバシ攻撃しまくっていた時の反応から見てもよくわかる。

ヤツは、ディアナがチェーンベルトを振り上げた時点で、まだチェーンは当たってもいないというのに、呻くような声を上げていた。


あの時起きていたのは、痛みに備えたラキルスの体が硬直したことくらいなはず。


ヤツは、ラキルスの体が直接受けたダメージの他に、筋肉の緊張や収縮など、体内にのみ作用するような直接的とは言えない圧みたいなものであっても、間違いなく苦痛を覚えている。


でも、外部からのダメージはどうしようもないとしても、宿主の体の反応によりもたらされるものが苦痛なのであれば、宿主の筋肉なり血管なりを制御すりゃいいはずなのに、ヤツはそれをしていない。


そう、ヤツは、ラキルスの体の硬直を制御できない。

ヤツには、ラキルス本体の反射的行動や防御反応的なものまで制御できるわけではないってことなのだ。


咄嗟に頭を庇うような体勢を取るのもそういうことだろう。ラキルス本体が反射的に守ろうとしたのが頭だったってことであって、ヤツ本体に頭を守ろうという意思があったかどうかは怪しいと思うのだ。だってヤツ、虫みたいなもんだし。


虫みたいなもんだからこそ、筋肉とか神経とかイマイチよくわかってなくて、どう宿主の体を制御すべきか分かってないだけなのかもしれないが、とにかくヤツの支配は甘い。


ヤツが干渉できるのは宿主の体の『大まかなパーツ』であって、血管の一本一本、神経の一本一本にまで干渉できているわけではないと見立てていいだろう。



一方ディアナは、『己の体を緻密に操る』ということに関しては、ちょっと常識の域を超えている。

神経の通っているところ、血の通っているところなら、大概の場所は意のままに操ることができるからこそ、コンマミリ単位の精巧なコントロールを可能にしているのだ。

ミクロな領域の制御に関しては、間違いなくディアナに利がある。


ということは、ディアナが体を乗っ取られたとして、ディアナの意思では『指』や『足』を動かすことはできなくても、ヤツの制御が及ばない筋線維などの末端組織に干渉することで、内側からヤツ本体にプレッシャーをかけることは可能だということだ。それはもう間違いないとディアナの直感が叫んでいる。


プレッシャーをかける場所とかけない場所を操作することで、こっちの意図する場所にヤツ本体を誘導することも可能なはずだし、ヤツ本体の潜伏箇所を絞り込めるのであれば、その箇所付近に全方位からプレッシャーをかけることで本体の動きを封じて、ディアナの体から外に出さないように閉じ込めておくことも可能ってことになる。


潜伏箇所が分かっていれば、物理的にヤツの本体に攻撃することすら、理屈としては可能になる。

まあこれは、体の自由が利かないディアナが、ヤツがどこにいるかを周囲の人に伝えて、外部からピンポイントに攻撃してもらわないといけないので、ちょっと現実的ではないかもしれないけども。


でもまあ何というか。

やりようはあるってことは、しっかりと掴めた。



「三男さん、やってほしいことがあるんだけど協力してくれる?」

「はい!何でも!」


ディアナは赤髪さんに何言か耳打ちし、頷いた赤髪さんは再びこの場から離れて行く。

赤髪さんを見送ったディアナは、ゆっくりとラキルスに向き直った。


ラキルスのような頭脳は、ディアナにはない。

体を張った作戦になってしまうのは大目に見てほしい。

でも、無謀な賭けに出るつもりもない。

だってディアナは、またラキルスに会いたいのだから。

ディアナなりのやり方で勝ちに行く。


勝ってみせる。



正直言えば、イチかバチかな部分はあるのだが、腹を括ったディアナに迷いはない。


なぁに、ディアナは頭で考えたらアカン部類かもしれないが、野生の勘に物を言わせれば、かなりイケる。

感覚の鋭さって観点でいえば、ディアナのそれは当代トップクラスだという自負がある。勘だってある種の感覚なのだから、そっちに諸々全フリすれば、ディアナの直感は神の啓示ばりの精度だと信じている。


脳筋は、結果が目に見える筋肉を一番に信じる傾向が強いが、目に見えないものだってちゃんと信じている。努力とか。根性とか。

だから、全力で勘に乗っかることにも躊躇などないのだ。


信じる者は救われるに決まってるんだから。ね?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ