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【コミカライズ】愛するつもりなぞないんでしょうから  作者: 真朱
第1章

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24/78

24. それでいいや


先ほどまでは各自自由に歓談していた会場は、この騒ぎで、隣国王太子とその護衛(に扮していた赤髪さん)、そしてディアナに注目している。

さっきは誰かが勝手に動く可能性もあったが、今だったらたぶん、誰も下手には動かない。動いたら巻き込まれかねないことを察しているはず。


「ごめんラキ。出来る限り猫かぶって生きていこうと思ってたんだけど、もう剥がれちゃうみたい」


迷惑をかけることになる夫には、一応一言かけておくことにする。

しょせんメッキどころか薄皮程度の猫だったので、そのうち剥がれることはわかっていたが、それにしたって早いなと、ディアナ自身ちょっと呆れてしまう。


だけどラキルスは、顔色ひとつ変えることはなかった。


「構わないよ。それがディアナだからね」


そして、すっと立食コーナーのカトラリーボックスを差し出しながら、

「私のことも、公爵家のことも、気にしないでいい。後のことは私が何とかするから、心置きなく暴れておいで」

と、いっそ清々しいほどに屈託なく笑った。


ディアナの旦那さんは、野ザルを嫁に迎えることの意味をちゃんと理解してくれていて、それ相応の覚悟もとっくに決めてくれていたのだ。

ほんとディアナは、いい旦那さんに恵まれた。


ディアナはにやっと笑うと、ラキルスが差し出したカトラリーボックスのフォークを鷲掴みにすると、

「皆さん、伏せていてください!」

と、よく通る声で叫び、走り出した。


厳選された少人数しか招かれていないパーティーである。

招待者は、ある程度状況を読むことに長けており、ディアナの声に逆らうことなく素直に従ってくれた。


間にいる人間が静物と化してくれれば、もうディアナの独壇場である。


ディアナはフォークを次々放った。

投げられるものであれば、どんなものでもコントロールしてのけるディアナは、もちろんフォークだってお手の物である。

フォークは、赤髪さんのマントを巻き込んで、木製の窓枠に次々と突き刺さった。


弧を描き、浮き上がるように飛んでいったフォークは、マントの端をさらいながら、反対側の窓枠へと突き刺さる。

更に間を縫うように放たれたフォークは、肩付近にあったマントの留め具の部品の隙間に食い込み、留め具の形を歪めた。


マントごと窓枠に縫い留められた格好になった赤髪さんは、必死にマントを脱ごうとするが、留め具が歪んだ関係で、外れてくれない。

それならとフォークを抜こうとするが、突き刺さった数が多すぎて、なかなかすぐには抜ききれない。


その間に、ディアナはさくっと距離を詰めていた。

目前まで迫るディアナを恐怖で歪んだ表情で見つめ、生きることを諦めたかのように崩れ落ちる赤髪さん。

いや、ディアナはただ近づいているだけのはずなのだが、何か地獄絵図みたいになってる気がするのは、気のせいだろうか。


「わたっ私はっ、今回の和睦を心の底から切実に望んでいて…っ、本当に何もっ!何もいたしませんっ!!ご納得いただけないのであれば、どうかこの命をもって…っ」


この世を儚んでしまっている赤髪さんを宥めるように、ディアナはなるべく穏やかに声をかける。


「護衛はともかく、あなたが和睦を歓迎してるのはちゃんとわかってるから、とりあえず落ち着いて?命は大切にしよう?」

「………っっ」


赤髪さんは、我に返ったようにディアナの顔を見つめた。


「えーと、ここで人が亡くなったりしたら、両国の関係はたぶんもうのっぴきならないことになると思うんだよね。それはこちらとしても望むところではないから、辺境伯家(うち)は何もしないよ?だから安心して?ね?」


途端、赤髪さんは、ぶわっと涙を溢れさせた。

ほっとしたんだろうなとは思うのだが、何かな、この弱い者いじめ感。


自分がいると冷静に話せないのかもしれないと判断したディアナは、あとは偉い人や会場内の警備兵の方にお任せすることにして、おそらく元凶であろう護衛のところへ向かうことにする。


ラキルスを伴って再び廊下に出てみると、ニセ赤髪さん(なかみは王太子の護衛。カツラを剥いでいるので、もう護衛と呼ぶことにする)は、警備兵にうつ伏せで取り押さえられ、動けないままでいた。

本当の実力を隠している可能性も考えていたが、最初にディアナが見極めた通り、『ほどほど』で正解だったようで、大した抵抗もできずにいる。


護衛も、歩いてくるディアナの姿を認めた途端、その表情に絶望の色を滲ませる。


「この護衛と言い、赤髪さんと言い、公爵家の新妻つかまえて、カオ見ただけで絶望するってどういうこと…?」

「その新妻が、辺境伯閣下が太鼓判押すほどの実力者だなんて、我が国の王ですら知らなかったことだから、仕方ないんじゃないか?」

「旦那くんよ。君はそれでいいのか」


何だかキワモノ扱いを受けている気がすることに、ディアナは不服そうな表情を隠そうとしない。

でもラキルスは、微笑みの仮面を外した、ふんわりとほころぶような微笑みを浮かべて、当たり前のことのように言うのだ。


「いいよ。私がいいって言ってるんだから、それでいいだろう?」

「―――――じゃあいっかぁ」 


旦那サマがキワモノの嫁でもいいって言ってるんだから、もうそれでいい。

ラキルスとディアナは、ふたりの夫婦の形は、こうやって作られていく。


そんな形も、きっと悪くない。


ディアナはもう、そんな風に思えるくらい、ラキルスのことを信頼できているのだから。




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