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【コミカライズ】愛するつもりなぞないんでしょうから  作者: 真朱
第1章

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18. 公爵家の新たな日常


「わたし標準サイズだから既製品のドレスで問題ないし、一人でさくっと買ってくるよ?まあセンスは我ながら期待できないから、店員さんにお任せするつもりだけどね!」

「いや、婚姻後初のパーティーに相いれない出で立ちで赴いて、不仲を疑われでもしたら堪らない。装いは夫婦揃えるべきだ。私の手持ちのものがわからないと合わせられないし、ディアナ一人じゃ難しいと思う」


辺境からの帰路にもそれなりに日数がかかっていることもあり、パーティーまではもう十日ほどしかない状況だったため、ディアナのドレスは既製品一択となった。


ディアナは店舗に出向いてテキトーに買ってくる気満々だったが、それにラキルスがストップをかけている状況が今である。


「でもラキ、歩き方カクカクしてるし、なんか姿勢もピシッとしてないし、人前に出るのやめといた方がいいんじゃない?正直まったくカッコよくないから、好青年な公爵令息の評判が下がるだけな気がするんだけど…」

「ディアナが筋肉痛の場所を狙い続けてくるから、かわすためには慣れない姿勢を取らざるを得なくて、痛くなかったはずの部位まで痛くなった結果、こんな姿になってるんだからな!?」

「だって馬車ヒマだったんだもん」

「ヒマだったからと、プロから狙われ続ける素人の身にもなってくれ…」

「だって筋肉痛は狙うためにあるんだもん」

「………そうなのか………」


悪気のカケラも見せることなくふんぞり返る嫁と、もう何かの境地に達したらしく、ただ静かに受けとめる夫。

辺境から王都の公爵邸に帰ってきた二人は、使用人たちが目を見張るほど、どこからどう見ても打ち解けていた。


元々自由人で遠慮のないディアナはともかく、ラキルスは目覚ましい変貌を遂げていると言っていいレベルであり、公爵家に長年仕えてきた使用人たちでさえも見覚えのない類の表情を、自然に表すようになっていた。


これが『うんざり』とか『げんなり』とかいう類の表情だったら、好意的に捉えることは難しかっただろうが、ラキルスは明らかに生き生きと楽しそうにしている。

品行方正の『優等生ラキルス』は姫向けに装われたもので、実は割と無理をしていたのだということに、公爵家の面々は気付かされることになった。


そして、もはや体に染みついていたはずのラキルスの優等生ムーブを、ものの数日であっさり剥ぎ取った嫁ディアナに、脅威と敬意を覚えずにはいられなかった。


ただ遠慮がないダケの人としか思えなかったら、敬意を払うには至らなかったかもしれないが、ディアナは決して無作法な人間ではなかった。


鍛え抜かれた強靭な体幹にモノを言わせて、いかなる瞬間もぴしりと美しい姿勢をキープし続け、所作は爪の先まで神経が行き届き、しなやかで洗練されている。

歩いていても食事をしていても物音一つたてず、無駄な動作が一切なく、一分の隙も無い。


身に付けた経緯は、『魔獣に対処するために必要だったから』による部分が多いのが実情とは言え、立ち居振る舞いや所作に関しては、ちゃんと公爵家の嫁を名乗るに申し分がないレベルに達していたのだ。偶然が導いた奇跡と言っていい。


口を開くと残念臭が漂ってくるのが玉に瑕ではあるが、『王の御前では淑女だった』という証言がどこぞからあがっており、『ちゃんとオンオフ切り替えられる子』というのが、公爵家界隈の共通認識となっている。


対外的に何ら問題なく、ラキルスに良い影響を与えてくれる女性に対して、悪い印象を持つ者など、公爵家にはいない。


いつの間にかディアナは、公爵家の皆さんから、嫁としてしっかり受け入れられていたのだった。



ぱっと見だけなら完璧そうにも思えるディアナだったが、残念ながらドレスについてはど素人もいいところだった。

流行りも何もあったもんじゃない辺境育ちな上に、ドレスを着る機会そのものも殆どない環境に身を置いていたのだ。センスが磨かれるわけなぞない。


こだわりと言ったらもう機能性についてのみで、早い話が動きを妨げさえしなければ色やデザインは『何でも良い』に尽きた。


だが何と、そういうところは、センスにも太鼓判を押されているラキルスがフォローしてくれた。『センスを疑われるようなものを贈って、姫に恥をかかせるわけにはいかない』という一心で、女性のファッションや流行についても物凄く勉強したんだそうだ。可哀そうなくらい真面目なヤツである。


こんなところも含めて、なんのかんのと上手く噛み合うようになってきた、公爵家の若夫婦なのであった。


そして、筋肉痛でみっともないラキルスの姿を、少しでも人目に晒さずに済むようにと、公爵家に出入りの商会を呼ぶ形で何とかディアナのドレスを調達することに成功した数日後。



隣国の王太子はやって来たのである。




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