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【コミカライズ】愛するつもりなぞないんでしょうから  作者: 真朱
第1章

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17. 一番の犠牲者


「……え、わたし?」


思ってもみなかった言葉に、ディアナはぽかんと口を開いた。

そんなディアナを目にしても、ラキルスは表情を緩めることなく、硬さを保ったまま続ける。


「自分が実際に結んでいた婚約から端を発している以上、私は紛れもなく当事者だ。だがディアナは、否応なしに巻き込まれただけだろう?」


そう言われると確かに、ディアナは今回の隣国とのなんやかんやについては、巻き込まれた形になるんだろうとは思う。でも。


「それを言うなら、ラキだって真っ先に巻き込まれたダケだし、わたしも今や当事者だって言えるよね?」


だがラキルスは、申し訳なさそうに眉を下げ、ゆるく首を振った。


「公爵家は、国の中枢を担っている。つまり私は巻き込んだ側にいる。婚約の白紙撤回にしても、公爵家合意の上で進めたことだから、納得した上でのことなんだ。でも、辺境伯家はそうじゃない。辺境伯家の責務はそこにはないし、意向の確認すらもしていない」


ラキルスは、何か悔いているかのように唇の端を嚙んで少し俯いたが、しっかりとした声で続けた。


「王都の人間が、魔獣の気配すら感じることなく平穏に過ごせているのは、辺境伯家が魔獣を完璧に封じ込めてくれているおかげであって、国への貢献は計り知れない。それでも、中央の政策とは一線を画して口を挟まずにいてくれているのに、困ったときは都合よく辺境伯家を巻き込むんだから、私達は傲慢だ」


心苦しそうなラキルスを前に、ディアナは喉に違和感でもあるかのような何とも微妙な表情を浮かべ、ちらっと辺境伯に視線を送った。

辺境伯も、同じタイミングで、同じような顔をして、ディアナに視線を送っていた。

なのでディアナは、辺境伯も全く同じことを考えていることを察した。


(いや、我ら辺境伯家、そんな高尚な考え、持ち合わせちゃいない……)


少なくとも、ディアナの父について言えば、ただ単に頭脳労働から逃れたいだけのはずである。

国のためとか、政策と一線を画してとか、そんな殊勝な心がけなどあるはずもなく、もうただひたすら、面倒なことに携わりたくないだけだ。

腹の内を探り探りアタマ使うより、頭を空っぽにして目の前の魔獣をただぶっ叩いていればいいダケの方が、断トツ楽チンなだけである。


でも、そんな力だけで世の中渡って行こうとする辺境伯家の脳筋思考も、ラキルスの目には、こんなにも崇高なものに映っているらしい。


立場や周りの環境が違うと、こんなにも考え方が違うものなのかと、ディアナはしみじみと感じ入ってしまったほどだった。

これだけ根本的な考え方が違うんだから、カンタンに意思の疎通なんか図れるわけがない。だからこそ、腹割ってとことん話し合うって、ホント大事なプロセスなんだと改めて実感する。



そんな、意外と深い話になってきたところに、兄が馬で駆けつけてくる。


公爵家から連絡があり、姫の新たな婚約者となった隣国の王太子が、急遽来訪することになったそうで、式典や歓迎パーティーが開かれることになり、ラキルスは『今回の和平の功労者のひとり』として招待されているから、急ぎ戻れとのことだった。


「ぱーてぃー…」


辺境の『祝勝会』という名のどんちゃん騒ぎとは絶対に違うであろうその響きに、ディアナは、何とも言えない無力感に苛まれる。

なぜならディアナは、貴族のマナー修行の一環として、隣の領地開催のささやかなパーティーくらいなら参加したこともあるが、正式なパーティーなんぞデビュタントくらいしか経験がなかったのだ。


ドレスは何着か、辺境伯家に置き去りにしてあるものなら無くはないが、はじめから使い回す気満々で、どれもこれも流行り廃りのないごくごくシンプルな定番アイテムばかり。『隣国の王太子を迎え入れるに相応しい華やかな出で立ちとは言い難い』という方面になら自信がある。


その他のドレスはと言うと、先日の王への謁見と、その直後に行われた公爵家との顔合わせの際に着ていたドレスならあるが、あまりにもこの間すぎて、さすがに連投するわけにもいかないだろう。


「ラキ、まずい。わたしデビュタントの衣装着る羽目になりそう」

「さすがにそれはマズイな…。急いで帰ろうか…」

 

こうして、楽しい辺境伯領滞在は、終わりを迎えることとなった。



辺境を立つ直前、ディアナは父から「結婚祝い」と称して、三連のパールのネックレスを渡された。

正式な場でも身に着けることのできる装飾品として、ディアナに一番相応しいと思うものを、父が選んでくれたのだ。


「えへへ。ありがとうお父様。なんかこう照れくさいね」

「遠慮はいらん。ガンガン有効に使え」

「あいさー」


その様子を穏やかに眺めていたラキルスに、辺境伯は、「ちょいちょい気晴らしに帰って来たらいい」と声をかけている。

その言葉に、心底嬉しそうに頷くラキルスの姿が、ディアナの印象には強く残った。


滞在期間としては短いものだったし、ラキルスは訓練に明け暮れていただけのような気がしないでもないが、それでも間違いなく夫婦の距離は縮まっていて、ふたりにとって実りのある帰省になったのだった。



ちなみに、帰りの馬車の中では、生まれてこの方味わったことのない尋常じゃない筋肉痛に悶え苦しむラキルスと、ニコニコと朗らかな笑みを浮かべながら太股やらふくらはぎやらを手刀で狙うディアナの攻防戦(但し、防御の方は全く意味を成していない)が繰り広げられていたんだそうだが、この光景を微笑ましいと捉えるかどうかは、皆さまの解釈にお任せする次第で…。




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