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【コミカライズ】愛するつもりなぞないんでしょうから  作者: 真朱
第1章

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15. 人のことは言えない


ラキルスが、辺境と自分の嫁への理解を深め、これから心掛けるべきこと、自分がやるべきことがわかってきた気がして、気持ちを引き締め直していたところに、クロスボウを手にしたディアナがひょっこりとやってきた。


「おうディアナ、ご苦労さん」


片手を挙げながら声をかける辺境伯に、ディアナは気まずそうに応える。


「今後を考えたら、わたしは手を出さない方がよかったよね?ついやっちゃったあ」


いままで辺境伯軍では、飛翔系の魔獣の対処は、ディアナ主体で行ってきていた。射手はもちろん他にもいるが、かなりの上空を飛行する魔獣に対処できる者は限られるし、ディアナほど確実に仕留められる者もいない。

ディアナが抜ける以上、今後は他の人があたるしかなくなるわけで、たまたま今日はいたからといって率先してやるべきではなかったと、ディアナは今になって思い至ったらしい。


「いやなに。こっちも徐々に慣れていくさ。ディアナの穴は正直痛いが、それだけで崩れる家ではないから、まあ見ておけ」


びくともしないことを体現するかのように、どんと構える辺境伯に、ディアナもほっとしたように力を抜いた。

そんなところに、辺境伯は因縁のアレを投下してきたのだ。


「ところでディアナ、おまえの旦那、名前は何だったか?」


さすがはディアナの父親である。ラキルスの名前を覚えていなかったらしい。

ラキルスはディアナで耐性があったこともあり、『どうも辺境の人には覚えにくい名前のようだ』とは思ったものの、特にショックも受けなかった。


というのも、ラキルスはある程度こんなような事態を予想していたのだ。


先日、ラキルスの名前がわからなかったディアナが、悲壮感を漂わせながら正解を訊ねてきたので、そこはラキルスも意固地になることなく、すんなり教えた。

「『リス』だったら可愛くて覚えやすかったのに…」とか呟く姿に、

(きっとまた、どれが正解だったか混乱したりするんだろうな…)

なんて思わずにはいられなかった。


そして、それが現実になったとしたらディアナが浮かべるであろう愕然とした表情まで易々と想像できてしまい、ラキルスは、密かにその時を楽しみにすらしていた。


そしてやってきた今この時である。


「旦那さまはね、ラキ…

…リスではないとして、ルスとレスの区別ってどうつけるんだったっけ…?リスじゃないってことばっか印象に残っててルスとレスでの正解がわからない…。ん?リスしか印象にないってことは、リスが正解なんだっけ?………あれ…?え………!?」


ディアナは愕然とした。

我ながらアホすぎて、『これだから脳筋はよ#』って言う人たちの気持ちが、悲しいかな理解できてしまった。


そんなディアナに、ラキルスは思わず吹き出した。

想像したまんまの表情をするディアナが、もう面白くて仕方がなかった。

どう考えても無礼を働かれているはずなのに、ディアナに関しては何故だかムッともこないのも、不思議ではあれど嫌な気分ではなかった。


「うそ…。ラキ…なに……!?」

「またわからなくなったのか?ヒドイなあ」

「えっ!?やだ待って…!?」


ラキルスは、激しく取り乱すディアナに、揶揄うかのように声をかける。

ディアナも何の躊躇いもなく素を曝け出しており、良好な関係が築けていることが窺える。


そんな二人を見ていた辺境伯は、ガハハと豪快に笑いながら、

「よしわかった。『ラキ』でいいな」

と、ラキルスの肩をバンバンと叩く。


「お父様それよ!ナイス愛称!」


先日も見た、起死回生の一手を見出したかのようなディアナの『ぱああっ』と音がしそうなほどの笑顔。

それはそれで面白いだけなのだが、今後を思うとなあなあにしていていいことはないと、ラキルスは思い直す。


「呼び方はそれでいいけど、ディアナはちゃんと覚えてくれないと」

「覚える!覚えるよ?正解の覚え方もセットで教えて!?」

「覚え方って言ってもね…」

「お願い、あきらめないで!?」


ラキルスは気づいていないようだが、今のラキルスは、とても自然に、楽しそうに笑っている。

辺境に来てたった数日過ごしただけなのに、何か吹っ切れたというか、憑き物でも落ちたかのように生き生きとしている。

つい先日まで、偽物の笑顔しか見せてくれなかったラキルスが、ちゃんとディアナと向き合おうとしてくれているんだと、口先だけでなく表情からも伝わるようになってきている。


そんな変化がわかるからこそ、ディアナも嬉しくなって、つい表情が緩んでしまうのだ。


「王命とか、ふざけたことぬかしやがってと思ったが、おまえらが上手いことやっていけそうなら、結果オーライなんだろうな。ディアナも、ラキに辺境流を受け入れてもらうばかりじゃなく、王都で生きる貴族として必要なことは、ちゃんと受け入れろよ?」

「―――――はい。お父様」


父のその言葉で、ディアナは目が覚めた気がした。



ディアナは、ラキルスが夫婦ふたりの時ですら作り物の笑顔を浮かべることが不満だった。信頼関係を築くつもりがないのだと、憤りすら覚えていた。素の表情を見せてくれるようになって、想像してた以上に嬉しく感じていた。


でも、そもそもラキルスは辺境伯家に婿入りしたわけではない。ディアナが公爵家に嫁に入ったのだ。

王都の公爵家で生きていくことになるディアナが、辺境に寄せてもらってご満悦になっていてどうする。


『ドレスなんて持ってないんだなって思わせときゃいいかな』とか、なに勝手なことぬかしてたんだろう。何も良くない。あやうく公爵家に恥かかせるところだったではないか。


「ごめんねラキ…」

「え、なに?どうした??」


急にしゅんと項垂れたディアナに、ちょっと揶揄いすぎただろうかと、ラキルスの方が狼狽えた。


「国の都合で婚約も結婚も振り回されて、誰よりも傷ついてるラキが、無理にだって笑おうとしてくれてることだけでも感謝するべきだったのに、『無理して笑わなくていいのに』とか、無神経だったよね…。わたしの価値観ばっか押し付けてごめん…」

 

ディアナのやったことは、傷ついてるラキルスを気遣ってる体で、自分の要望を押し付けていただけなような気がする。

そう思うと、もう恥ずかしいやら情けないやらで、穴があったら率先して最奥まで入るから、隙間なく徹底的に埋めて欲しいと思ってしまう。



「いや、そもそも傷ついてないけど」



ふいに耳に届いた言葉に、思わずディアナの声がこぼれてしまったのは、無意識としか言いようがなかった。


「え?」

「ん?」


どういう反応が返されるべきなのかなんて、ディアナには分からない。

が、少なくとも何事もなかったかのような反応は違う気がするのに、ラキルスの声色は、どう考えても朝の挨拶くらいのトーンにしか聞こえず、ディアナはぽかんとラキルスを見上げた。


一方のラキルスも、きょとんとしたような顔で、ただ静かにディアナを見下ろしていた。




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