第4話 奥多摩ダンジョン秘湯
「ふう~、いい気持ちだ」
俺はダンジョンの天然温泉に浸かり、そう呟く。
奥多摩山林ダンジョン深層。
そこの隠されている通路を進んだ先にその温泉はある。
高所にあるこの温泉の目の前には、どこまでも広がる広大な景色が一望できる。
まさかこんな森の中に温泉があるなんて誰も思わないだろう。師匠も偶然ここを見つけたと言っていた。
"すげえ眺めだ"
"行きてえ~"
"行きたいけど道が険しすぎるw"
"深層ついてからが本番だったな"
"普通に透明な壁とかあって草だった"
"どうやったら気づくんだあの道"
"クソマップすぎた"
"大岩トラップも殺意高かったなw"
"てか田中の入浴シーンとかやばすぎ。永久保存版だろ"
"タオル巻いてるとはいえ色気凄すぎる。誘ってんのか?"
"シャチケンガチ恋勢は今日も元気だな"
なんとか温泉にたどり着いた俺は、腰にタオルを巻いて温泉に入っている。
普通の温泉ではマナー違反かもしれないが、まあここはダンジョンの秘湯、他に人はいないし許されるだろう。
ちなみにドローンのカメラにはわいせつ物フィルター機能があるので、うっかりタオルが剥がれても自動でモザイク処理してくれるので安心だ。
「誠、入って大丈夫かしら……?」
「ああ。もちろんだ」
背後から天月の声がしたのでそう返事をする。
天月は着替えに時間がかかったので、先に俺が入っていたのだ。
近づいてくる足音が聞こえてきたので振り返ってみると、そこにはタオルを体に巻いた天月の姿があった。いつもは下がっている長い髪を結び、温泉に入らないようにもしている。
"!?!?!???!!??!?"
"うおおおおおおお!!!!!!"
"色っぽすぎる!!"
"ふーん、えっちじゃん"
"なんか涙でてきた"
"奇跡のうなじ"
"RECRECRECRECREC"
"恥ずかしそうにしてるのがたまらん"
"ほんま[このコメントは規制されました]"
"これ[このコメントは規制されました]"
"[このコメントは規制されました]"
"[このコメントは規制されました]"
"ぬるぽ[このコメントは規制されました]"
"[このコメントは規制されました]"
"規制されすぎww"
"ガッ"
タオルを体に巻いた天月はとても綺麗で色っぽく、俺は思わず見とれてしまう。
するとそれに気づいたのか、天月は頬を赤くして視線を逸らす。いやこいつ可愛いな?
「ほら天月。こっち入れるぞ」
「ええ、失礼するわ」
俺がスペースを作ると、天月はゆっくりそこに入る。
温泉の温度は結構高め。
天月はつま先からゆっくり入り、時間をかけて肩までつかる。
「ああ……ふう……気持ちいい……」
温泉に入った天月は本当に気持ちよさそうな顔をしながら、目の前の絶景を見る。
小さい頃は温泉に興味なんてなかったが、大人になるとこれ以上のものはないと感じるようになってしまった。
温泉は日本人の心だな。
「なんだかぽかぽかして……体が軽くなってきた気がする……」
"ほんま気持ちよさそう"
"マジで入りたい"
"かなたそのうなじに焼かれた心が戻らないのですが"
"それは温泉でも治らないだろうなw"
"天月さんの体調良くなるといいけど"
"ねー"
"せっかくここまで来たんだから良くなってほしい"
温泉に浸かった天月の表情は柔らかくなっている。
これは効果がありそうだ。
だが油断は禁物。俺は天月に近づいて本当に良くなったか確認することにする。
「天月。少し体を触っていいか? 良くなったか調べたい」
「え!? いや、でも……ううん。わ、分かったわ。やってちょうだい」
天月は動揺しながらもそれを認めてくれる。
俺は深呼吸し、心を落ち着けてから彼女の肩を触る。
これは検査これは検査これは検査、やましいことはなにもない。
「まだ少し硬いが……だいぶほぐれたか。魔素も……うん、流れ始めてる」
「ちょ、ちょっと誠そこは……んっ。力がつよ……あっ……」
「ん? まだここにちょっと魔素が詰まってるな強く押せば流れそうだな。ちょっと押すぞ」
「ま、まこと待って……んん……あ……っ!」
"わいらはなにを見せられてるんだ"
"いちゃつくな"
"高度なプレイを見せつけられている"
"これ全年齢で大丈夫なやつ?"
"●REC"
"無言RECニキが一番怖いのよ"
"ガチで[このコメントは規制されました]"
"[このコメントは規制されました][このコメントは規制されました][このコメントは規制されました]"
"怒涛の規制コメラッシュで草"
"Dチューブくんよう働いとる"
俺はしばらく天月の体をマッサージした。
おかげで彼女の体に詰まっていた魔素は綺麗に流れ、排出されるようになった。
不調もまたたくまに良くなり、体に元気が戻っていっているようだ。本当に良かった。
「ああ……本当に楽になったわ。ありがとう誠」
「気にするな。困った時はお互い様だろ?」
「ふふ、そうね」
天月は優しく笑うと、温泉に浸かりながら俺の肩に頭を預けてくる。
急にそんなことをされたので俺は分かりやすくビクッと驚いてしまう。
星乃や凛ならともかく、天月がこういった風に甘えてくるのはとても珍しい。しかも今は配信中だっていうのに……どういう心境の変化だろうか。
「ど、どうしたんだ?」
「知ってるのよ。凛や星乃さんと仲良くやっているのは」
「え゛」
天月の言葉に思わず固まる。
手を出しているのではなく、俺が手を出されている立場ではあるのだが、その言葉を否定はできない。
「二人とも私にとって家族のような存在だし、あなたが仲良くするのは構わない。二人と結婚するのも構わない。でも……」
天月はドローンのカメラを手で隠すと、もう片方の手で俺の顎をくいっと持ち上げ、唇を奪ってきた。突然のことに俺は驚いて固まってしまう。
しばらくそうしていた彼女は、ゆっくり唇を離すと、まるで挑発するように自らの唇をぺろりと舐めて言葉に続きを口にする。
「あの子たちにもあなたの『一番』を譲るつもりはないから。覚悟してなさい」
「あ、ああ」
俺がそう言うと天月は満足したような表情をしてドローンのカメラから手を離す。
なんて大胆なことをするんだ。こんなことされたらどうしても意識してしまう。まんまと天月の術中にはまってしまった。
"えええええええ"
"なにをしたんや!!!"
"なんで隠しちゃうの(泣)"
"どこで課金したら見れますか?"
"音もよく聞こえなかったし絶望"
"え、お前ら心の目で見れてないの? かわいそw"
"心眼覚醒ニキもおる"
"俺も会得するか、心眼"
"俺は音も聞こえるようになったよ"
"心眼使えないんだ。生きづらそう"
"最近の人ってみんな心眼使えるの?w"
"若い人はみんな使えるよ"
"まじか"
"若者の人間離れ"
"たすけて"
"ほんま草"
俺は温泉に浸かりながら、コメントを眺める。
みんな思い思いのコメントをしていて楽しそうだ。突発の配信だったが楽しんでもらえているみたいでなによりだ。
俺は安心するが……あることに気づき、立ち上がる。
"わ"
"どした?"
"いい!?"
"タオル落ちて草"
"モザイクかかったw"
"なんとか一時停止で見れんか?"
"無理だろw"
"Dチューブのディフェンス力は高いからなw"
"どうしたのシャチケン?"
俺が急に立ち上がったことで天月も「きゃ!?」と驚き、タオルが外れた場所をガン見される。
俺は急いでタオルを巻き直し、天月の方を見る。
「悪いが温泉から上がる。天月はどうする? まだつらければ入っててくれ」
「ナメないで。どうしたのかは知らないけど、もう動けるわ。あなたの足手まといにはならない」
天月はそう言って立ち上がる。
その足元はしっかりしている。どうやらもう魔素詰まりの影響はすっかり抜けているみたいだ。
「よし、それじゃあ行くとするか」
俺はそう言うと、ダンジョンの秘湯を後にするのだった。




