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社畜剣聖、配信者になる 〜ブラックギルド会社員、うっかり会社用回線でS級モンスターを相手に無双するところを全国配信してしまう〜  作者: 熊乃げん骨
第十九章 天月、休暇を取るってよ

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第1話 泣き虫奏ちゃん

"うぷ、酔ってきた"

"速すぎて目が回る!"

"ドローンくんの頑張りに涙を禁じ得ない"

"下層もう突破してそう"

"今日ってRTA配信じゃないよね?w"

"温泉ー!! はやくきてくれーっ!!"

"おろろろ"

"視聴者の食道はもうボロボロ"


 俺は天月を背負ったまま、ダンジョンを一気に駆け抜けた。

 このダンジョンは以前来たことがある。ダンジョンの構造が変わることなどそうないので、迷うことなくするすると深層までたどり着くことができた。


「天月、体調は大丈夫か?」

「ええ……問題ないわ」


 天月はそう言うが、来た時より顔色が悪い。

 ダンジョンの中は地上より魔素濃度が高いからつらいんだろう。

 早く治さないと。俺の足は自然と早まる。


「……こうしていると、懐かしいわね」

「え?」


 走りながら天月の言葉に耳を傾ける。

 懐かしいってなんのことだ?


「誠は覚えてる? 私たちがまだ小さかった時のこと」

「だいたい覚えていると思うぞ。家が近くてよく遊んだよな」


 俺と天月はいわゆる『ご近所さん』だった。

 歳が近く、親同士も仲が良かったため、俺たちはよくお互いの家や近くの公園で遊んだ。


「私は引っ込み思案で友達も少なかった。だから嫌がらず相手をしてくれる誠に、いつも甘えていた」

「はは、そうだったかもな。あの時の天月はいつも後ろをついて来てたっけ」


 天月はあまり人に懐くタイプではなかったが、なぜか俺にはすぐ懐いて、天月の親も驚いていた記憶がある。だからよく面倒を見てほしいと頼まれたんだ。


 だが歳が近いとは言え俺と天月は男子と女子だ。お互いの好きなものは被っていなくて、いつも俺が天月のやりたい遊びに付き合う形になっていた。


 おままごとは最後まで好きになれなかったが、それでも俺は天月の面倒を見るのが嫌じゃなかった。

 一人っ子の俺にとって天月は可愛い妹のような存在だったから。おままごとに付き合うくらい苦でもなんでもなかった。


「小さい頃の私はすぐ疲れたり怪我したりして、帰る時はよく今みたいに誠におぶってもらっていた」

「そういえばそんなこともあったっけな」

「私は近所の男子にからかわれることも多くて、それでよく泣いていた。泣き虫(かな)ちゃんなんて呼ばれてね」

「そうだっけか。覚えてないな」


 ちなみにこの会話は配信に乗っていない。

 高速で駆けている俺らの声は、いくら高性能ドローンでも拾うことはできない。


「私が泣くと、いつも誠兄まこにいが助けてくれた。いつもおんぶして慰めてくれた。私はそれが嬉しくて……その時からあなたのことが、ずっと好きだった」

「天月……」


 ゼロ距離で好意を伝えられ、俺はドキドキしてしまう。

 天月をおんぶしていて良かった。とても今顔を正面から見られない。


「そしてその時から、こうも思っていた。いつも守ってくれるあなたを、今度は私が守れるようになりたいと。その為に研鑽を積み、そして討伐一課の門を叩いた。……まあ結局、今もこうしてあなたに守られてしまっているのだけれど」

「……そんなことないさ。俺はいつもお前に助けられている」


 俺だけじゃない、この国に住む全ての人が天月に助けられている。

 彼女が第一線で戦ってくれるから、俺たちは普通に生活できているんだ。


 俺は感謝を込め、俺の首に回っている彼女の手をつかむ。


「本当に強くなったなかなで。お前は俺の誇りだよ」

「…………っ」


 俺の精一杯かっこつけた台詞に、返事はない。

 ただ肩に熱いなにかがこぼれ落ちてくる感触はあった。ドローンがそれを映さないように、俺は位置取りに気をつける。


「さて、そろそろ目的地だ。大丈夫か」

「ぐず……っ、ええ。大丈夫、問題ないわ」


 天月はそう言うと、一層強く俺にしがみつくのだった。


◇ ◇ ◇


「……止まってください」


 最初に異変に気づいたのは、凛だった。

 彼女の声のトーンがいつもより真剣なものであることを察した星乃は、彼女の声に従い止まる。


 星乃と凛の二人は仕事を終え、自宅兼事務所の前に戻って来ていた。

 二人の目覚ましい活躍により仕事はいつもより早く終わり、日が暮れる前に自宅に戻ることができたのだ。


「……おかしい。静かすぎます」


 リリシアとダゴ助は普段うるさく生活しているわけではない。

 どちらも節度を守って生活しており、周りの人間に迷惑がかからないようにしている。


 しかしそれでも微弱な生活音は絶対に鳴る。

 普段であれば感じるそれを、全く感じなかった。凛は異常事態と判断し警戒度をぐっと引き上げる。


「音はしませんが、誰かいるかもしれません。合図したら同時に飛び込んでください」


 凛の言葉に星乃はこくこくと頷く。

 二人は音を立てないように自宅の扉の前に行くと、同時に家の中に侵入し臨戦態勢を取る。


 しかし――――そこには誰もいなかった。


「誰もいない……」

「どういうこと?」


 二人は警戒しながら家の中に入っていく。

 そしてリビングにつくと「うう……」と唸りながら倒れている者を発見する。


「ダゴ助さん!? 大丈夫ですか!」


 星乃は彼に駆け寄り上体を起こす。

 ぐったりしているが怪我をしている様子はない。脈もあり命の危険はなさそうだ。


「うう、つ……あんにゃろう……卑怯な手を使いやがって……」


 意識を取り戻したダゴ助は自分の力で起き上がり、周囲を確認する。

 そして星乃と凛の姿、そして家の状況を見て現場を把握する。


「俺はいい……大丈夫だ。それより姫さんだ……!」

「そうだ、リリシアちゃんは? リリシアちゃんはどこにいるんですか!?」


 ダゴ助の言葉を聞き、星乃の顔に焦りの色が浮かぶ。

 最悪の展開が脳をよぎる。その考えを否定する言葉を彼女は待つが、現実はそう優しくはない。


「姫さんが攫われた! 頼む、助けてやってくれ!」

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