第5話 田中、イカを焼く
「社畜一にシチュー一。あとイカ一つですが、こっちはやります」
「分かりました!」
注文を厨房に伝えると、中の人が元気よく応えてくれる。
今厨房に入ってるのは確か鋼鉄の牡鹿ギルドの人のはず。彼らはとてもよく働いてくれていて、非常に助かっている。
ただ三上と同じでめっちゃ距離が近いので少し戸惑ってしまう。いや慕ってくれるのはありがたいんだけど、俺は基本人見知りなんだ。
「さて、やるとするか」
俺はエプロンを装着すると、喫茶店エリアの目立つ場所にある『鉄板』の前に行く。
縁日で焼きそばを作る時に使うようなその鉄板の上に、俺は皇帝イカの身を出す。
"お、イカ焼きタイムだ"
"ラッキー!"
"なにこれ"
"定期的にシャチケンがイカ焼いてくれるんだよ"
"一度にたくさん作るから、それが無くなったらまた作るって感じ"
"なるほど"
"イカ焼きパフォーマンスなんてあるんだ……"
"誰に需要があるんだw"
"いるさっ ここに一人なっ!!"
"てか喫茶店に鉄板あるのシュール過ぎるだろw"
"まあダンジョン内でコラボカフェしてる時点で変すぎるから……"
"それはそう"
俺はブロック状の大きな皇帝イカを鉄板に落とし、包丁を手に取る。
先端が鋭く刀身の長い、特注の包丁だ。ダンジョン産の素材でできていて、モンスターの素材でも簡単に切ることができる。
俺は包丁を構えると、鉄板の上でじゅうじゅう焼けるイカの身に向かって包丁を振るう。
「――――はっ!」
剣閃が走り、刃が皇帝イカの身を一瞬にして一口大の大きさに切り分ける。
俺はすぐにヘラに持ち替えると、切り分けられたイカたちを丁寧に焼いていく。
"うおうっま"
"包丁さばき見えねえw"
"なにげにヘラさばきも上手すぎる"
"イカ焼き美味そう……"
"現地民羨ましすぎる"
"田中ァ! 俺も焼いてくれ"
"イカも配信見る時代か"
"草"
最後にイカに特製醤油を少し垂らし、焼けたイカを一人前ずつ皿に盛り付けていく。
ふう、今回も中々上手く焼けたな。練習した甲斐があったというものだ。
さっそく焼きたてのイカをさっきのお客さんのもとへ持って行こうとすると、一人のメイド服を着た少女がこちらにやって来る。
「たなか、それリリが運ぶ」
「お、そうか。じゃあ頼んだ」
そう返すと、黒髪の少女リリは「まかされた」と自身の胸を叩く。
"りりたそ!?"
"美少女すぎる"
"メイド服姿かわいすぎか?"
"こんな美少女メイドが人外なはずがない"
"むしろこう考えるんだ。こんな美少女が人間なはずがない……ってな"
"たし蟹"
"いあいあ"
"ふんぐるふんぐる"
"ほんそれ"
"いいこと言うなあ"
"みんな頷いてて草"
"世は正に大肯定時代"
俺と生活しているショゴスのリリは、以前人型になることができるようになったが、俺を助けるために力を使いすぎ、もとのスライムに似た姿に戻ってしまっていた。
しかし最近は特訓のおかげもあり人型の姿を維持できるようになっていた。
戦闘など激しい動きをしたらすぐに戻ってしまうが、バイトくらいの労働ならしばらく人のままでいられる。なのでリリはメイド姿で働きたいと言い出し、今こうしてコラボカフェの店員として手伝ってくれている。
リリはトレーに皿を乗せると、頼んだお客のもとに料理を運びテーブルに置く。
手伝うと言った時は少し不安だったが、リリは物覚えが良くてすぐに仕事を覚えてくれた。
「イカ持ってきた。食べるべき」
「え……っ、リリちゃん!?!?!?!? は、はわわ……かわいすぎう……」
"反応が限界オタクすぎるww"
"でも俺もリリたそが運んできたら同じ反応する"
"羨まし過ぎてハゲた"
"ハゲはもともとだろ"
"あー、ガチで行きたい"
"リリたそマジ天使"
"リリたそは俺の嫁"
"どけっ! 俺がご主人様だッッ!!"




