第4話 田中、接客する
「ふはははは! わらわ参上!」
「え!? リリシア様!?」
海の家エリアのとあるテーブル。
料理を待っていた男性のもとに現れたのは、エルフの姫リリシアであった。
注文をした相手は鋼鉄の牡鹿ギルドの人であり、まさか知っている人物が運んできてくれるとは思っていなかった。
「ほれ、頼んだ『エルフの里の特製サラダ』と『世界樹の朝露』だ。そのサラダはわらわが考案した料理、味わって食べると良い」
「ありがとうございます! 感激です! で、でもナンデ姫様が!?」
「お主のつけてるそのバッジ、わらわのファングッズであろう? わらわの僕の証であるそのバッジを着けてくるとはよい心がけだ。それを労うためにわらわがわざわざ来てやったのだ」
「ひ、姫様……俺感激じまじだ! 一生づいていぎますっ!」
感動して泣き出す男性。
それを見てリリシアはうんうんと満足そうに頷く。
"草"
"姫様も働いてんの!?"
"わらわー"
"姫様って働けたんだ"
"はい不敬罪"
"わらわのサラダ美味しそうじゃん"
"メニュー見たけどエルフの里のパンケーキも美味しそうだった"
"エルフの里ってパンケーキあるんだ……"
"てか世界樹の朝露ってただの水じゃん"
"はい不敬罪"
"リリシアたんはあはあ"
"はい不敬罪"
"姫様エッッッ"
"はい死刑"
"草"
"今日何人捕まるんだw"
「手伝ってくれてありがとねリリシアちゃん。人足りないから助かったよ」
「この程度気にせんで良いぞ唯。民と触れ合うのも姫の務めだからな」
リリシアは星乃にそう言うと、えへんと胸を張る。
普段は家の中から出ることができないリリシアだが、今日この日は羽を伸ばすことができた。このコラボカフェは覚醒者の警備員が多く付いている。不審者が入ることはできない。
田中や他の覚醒者もおり、ここの安全さは世界でも群を抜いていると言っても良い。そういったこともあってリリシアの外出、そしてコラボカフェでのバイトが許可されたのだ。
「こうして外に出るのは久しぶりだが、いいものだな」
そう言って潮風に髪を揺らすリリシア。
物思いにふけっているかのような表情はとても様になっており、そのまま絵画にしたら美術館に飾れそうなほど、その姿は気品で溢れていた。
"うお、俺の姫様綺麗すぎ……"
"俺の姫様がこんなに美しいわけがない"
"尊すぎて目つぶれた"
"ビジュ良すぎか? 推します"
"マジで黙ってれば姫過ぎる"
"この顔で迫ればシャチケン落とせるだろ"
"わらわマジわらわ"
"今日から臣民になります"
自分の様子が配信されていることなどすっかり忘れているリリシア。
もちろんコメントも見ていないので自分の株が上がっていることなど全く気づいていなかった。
「……と、そろそろ次のオーダーを取りに行くとするか。外は上手く回せているが、中の者たちも上手くやっているかの?」
「大丈夫じゃないかな? 中は凛ちゃんがやってるし、田中さんもいる。それに心強い助っ人もいるからね」
星乃がそう言うと、リリシアは「それもそうだな」と返す。
リリシアは人見知りな方であったが、共同生活をする内に星乃や凛に心を許すようになっていた。もし戦闘になったとしても背中を預けられるだろう。
「凛たちに負けてられん。わらわたちも働くとするか」
「うん! 頑張ろう!」
二人は頷き合うと、再び彼女らを待ち侘びるファンのもとに行くのだった。
◇ ◇ ◇
「お待たせしました。ご注文はお決まりですか?」
「きゃー!! 本物のシャチケンだ!!!!!」
注文を取りに行くと、とんでもない大声で反応される。
毎回こんな感じでリアクションを取られるので流石に慣れてきたが、それでもやっぱり困惑してしまう。
こんな社畜と会って黄色い声を出す意味が分からない。
「た、田中さんその格好凄く似合ってます。とても」
「そうですか? ありがとうございます」
コラボカフェの喫茶店エリアで働いている俺だが、いつものスーツ姿ではなかった。
足立が用意したその服はいわゆる「執事服」であった。
ビジネススーツに似てはいるが、それよりも体にピタッとフィットしてシルエットが目立つようになっている。いつものスーツより高級感があってシュッとしているが少し動きにくい。
室内なのに手袋をしているし、変な感じだ。
「そうですよね。とても似合ってます」
「っ!?」
突然至近距離から声がして驚くと、そこにはメイド服を着た凛の姿があった。
メイド服を見事に着こなしている凛は開店開始から働き続けており、獅子奮迅の活躍を見せている。注文の把握、客の誘導、料理の提供に会計、全てがプロ顔負けの実力だ。
これでバイト経験がないというのだから驚きだ。配信を見ている飲食業界の人間はみな彼女を欲しがっているだろう。
「先生の執事服姿はセクシー過ぎます。目に毒です。こんなものを着て人前に出るなんて私はまだ許していません」
「わ、分かったから離れろ凛、ほらみんな見てるし! な!?」
ふんふんと鼻息荒く迫ってくる凛から身を引いて逃げる。
このままだとこの場で押し倒されてしまいそうだ。そうなったら放送事故じゃ済まないアカBANされちまうぞ。
"凛ちゃんおもろw"
"確かにシャチケンの執事服いいよな"
"社畜執事たまらん"
"凛ちゃんのメイド服も最高"
"この喫茶店行きたすぎる"
"凛ちゃんめっちゃ興奮してんじゃん"
"抱けえっ! 抱けーっ!"
"いいぞもっとやれw"
配信を見ている視聴者たちも囃し立てている。
やれやれ、勝手な奴らだ。
「ほら凛、待ってるお客さんもいるんだから仕事に戻れ」
「くっ、先生のうなじが性的過ぎる……!」
「はよ行け」
仕事に戻るのを渋る凛を無理やり送り出す。
いつもは素直なんだけど、変なとこで頑固スイッチが入ってしまう。この服を着てからはそのモードに入ってしまうことが多い。困った奴だ。
「お騒がせしました。ご注文はどうしますか?」
「は、はい。えっとそれじゃあ『田中の社畜ブラックコーヒー』をお願いします。あ、あと『田中の手作り魔素抜きシチュー』もお願いします!」
「はい、分かりました。少々お待ちくださいね」
俺はそう言って厨房に向かう。
田中の社畜ブラックコーヒーはコラボカフェの看板メニューであり、一番の人気商品だ。ダンジョン産のコーヒー豆を使っており、めちゃくちゃ苦い味になっている。
一つ頼むと全6種のコースターの中から一つランダムで貰える仕組みなのだが、その絵柄はなぜか全て『俺』だ。
普通こういうのの絵柄ってバラけさせないか? いくら俺モチーフのメニューだからって、全部俺にする必要はないだろう。
"社畜ブラックコーヒーは草"
"俺も飲みたかったなあ"
"サイトに「田中の業務のように苦いコーヒー」って説明あって草なんだ"
"どんだけ苦いんだw"
"人間に耐えられる苦さなのか……?w"
"ランダムコースター、全部シャチケンの写真でウケる"
"フルコンプ不可避"
"六杯も飲んだら体爆発しない?w"
"ランダムだから六杯じゃ済まないんだよなあ"
"汚い、でも買っちゃう"
"田中ァ! 俺も一杯もらえる?"




