第7話 皇帝イカ討伐戦
「うう……やだ……生臭くてべちゃべちゃする……」
「くっ、剣さえあればこんな奴……っ」
皇帝イカの足に捕まっている二人は体をくねらせて抜け出そうとするが、イカはそれを許さない。どうやらあの粘液を使って二人の魔素を吸収しているみたいだ。
上層に来たのも俺たちの魔素を感じ取ったからなのかもしれない。なんにせよ許せない奴だ。
海上を走って皇帝イカに接近した俺は、剣を振るおうとする。しかしその瞬間海の中からもう一つの影が飛び出し、皇帝イカめがけて突っ込んでいく。
「てめえなにしてやがる! 兄貴を困らせる奴は俺が許さねえ!」
現れたのは今まで海で泳いでいたダゴ助だった。
そういえばこいつもいたんだった。すっかり忘れてた。
"ダゴ助おったんかww"
"やれダゴ助!"
"もうちょっと見せてくれてもいいのよ"
"こいつ今までなにしてたんだw"
"もったいないけど二人の安全が優先だししゃあないか"
"早く助けて!"
「食いやがれ! 鋭ヒレ・スラーァッシュ!」
ダゴ助は腕に生えているヒレで皇帝イカに斬りかかる。
しかしそれが当たるより早く海中からイカ足が出現し、ダゴ助の体に巻きついてしまう。
「なーっ!!??」
捕まったダゴ助は星乃たちと同様に粘液まみれになり、嫌そうにもがく。
なにやってんだあいつは。
"おい!"
"捕まってて草"
"オエーーーー"
"お前のサービスシーン誰が見たいんだよ!"
"誰得すぎて草"
"俺得ではある"
"ダゴ助ガチ勢もおる"
"てかお前EXランクだろ! イカに負けるな!w"
"最近部屋でずっとゲームしてるからしゃあない"
"弱くなったなあ"
"#働けダゴ助"
"シャチケンと戦った時は強かったのに"
"ダゴ助、俺恥ずかしいよ"
"ダ俺恥"
"これがニートの末路か"
「まったく……しょうがない」
俺は皇帝イカに接近すると、剣を振るい十本ある足を全て切り落とす。
すると皇帝イカは俺めがけてイカ墨を噴出するが、俺はイカ墨ごと胴体を斬り裂く。
「我流剣術、瞬」
剣閃が走り、イカ墨ごと皇帝イカの体が切断される。皇帝などと大層な名前がついてはいるが、大きくて粘液に特殊な効果がある以外は、普通のイカと大差ない。
その体は多少ヌメってはいるが、たいして硬くはない。新しくなった俺の剣ならバターのようにスパスパ斬ることができる。
『ぶ……も……ぉ』
加工しやすい大きさに切られた皇帝イカは絶命し、その場にぷかぷかと浮く。
無事皇帝イカを倒した俺は、上から落ちてきた星乃と凛をキャッチし、抱きかかえる。少し離れたところでダゴ助がボシャン! と海に落ちたがそっちは無視する。
ぬるぬるの魚人をキャッチするのはさすがに遠慮させてもらう。
「田中さんありがとうございます……助かりました」
「すみません先生、ベトベトにしてしまって」
二人は申し訳なさそうな顔をする。
別にこれくらい気にしなくてもいいというのに。
「気にするな。二人が無事ならそれでいい。戻ってシャワーを浴びよう」
「田中さん……っ♡」
「先生……♡」
"アチアチやね"
"ごちそうさまです"
"見せつけてくれるぜ"
"ベトベトの田中……いける!"
"なにがいけるんだw"
"粘液もしたたるいい社畜"
"新キャラ、ベトケンの誕生である"
"探索してないのに撮れ高ありすぎだろ"
"ゆいちゃんと凛ちゃんのシャワーシーンはファ◯ボックスで"
"10000000回登録した"
"課金させろ"
"URL貼れ"
こうして俺たちはイカの粘液を落とすため、一度地上に戻ってシャワーを浴びるのだった。
◇ ◇ ◇
「みなさんお待たせしました。粘液を落としたので配信を再開します」
ダンジョンの中に戻ってきた俺は、星乃のドローンに向かってそう話す。
皇帝イカの粘液は綺麗サッパリ落ちている。今度出会ったら捕まる前に一瞬で切り刻まないとな。
"しいたけ"
"けむし"
"しまうま"
"待ってた!"
"来た!"
"お、しりとりも終わりか"
"白熱したな"
"やっと服着れるぜ"
"全裸待機民もおる"
"しりとりしてたからあっという間だった"
"ぬるぬるシャチケンもっとみたかった"
"粘液系社畜の時代が来るかもしれない"
"てかシャワーの時間長くない? なにしてたんですかねえ"
"若い男女がシャワーに……なにも起きないはずがなく……"
"脳が破壊される"
"一緒に破壊されようぜ"
どうやら視聴者は待っていてくれたみたいだ。そこそこ時間が経ったはずなのに同接はほとんど変わっていなかった。
それにしてもあのヌルヌルは強敵で中々落ちなかった。おかげで時間がかかってしまった。
……まあ時間がかかったのは俺がシャワー中に二人に襲われたのもあるんだが。わざわざそれをここで言うこともないだろう。また色々からかわれてしまう。
"で、これからどうするの?"
"イカのせいで遊ぶって感じでもなくなったよね"
"まだ配信終わるにはちょっと早いし"
"たしかに"
"もうちょっとやってほしい"
「そうですね。せっかくなのでもう少しだけ配信はやろうと思います。なにか他の遊びをすることも考えたんですが、せっかくコラボカフェをやるんでそれにちなんだことをやろうと思います」
俺はそう言うと集めておいたある物をドローンに映させる。
それは皇帝イカの切り身。綺麗に部位ごとに切断されたイカの身や足をダゴ助に頼んで集めてもらっていたのだ。
そしてコラボカフェで使う予定の大きなグリルもセッティングしておいた。試運転のために持ってきておいたんだが、まさか役に立つとは思わなかった。
「今日はこれでイカ焼きを作ろうと思います。もし美味しければコラボカフェでメニューにすることも考えています」
"うおおお!"
"草"
"いいね"
"俺もイカ焼き食べたい!"
"そうきたか笑"
"イカくん死んでも活躍しててえろい、いやえらい"
"最悪の間違えで草"
"わいも食べたい"
俺たちはさっそく皇帝イカの切り身を更に細かく切り分け、グリルに並べていく。
星乃も凛も手際がかなりいい。当日は二人にも手伝ってもらう予定なのでかなり心強いな。
「よし、あとは火をつけて……と。これで焼き上がるのを待とう」
皇帝イカの切り身が焼かれていく。
じゅうじゅうと音がし始め香ばしいいい匂いが周囲に広がっていく。皇帝イカは食ったことがないけど、これは期待できそうだ。
「お腹空いてきた……」
「いい匂いですね……」
星乃も凛も待ち切れないといった様子だ。
ダゴ助なんかはよだれを垂らしながらイカを間近で見ている。何度かつまみ食いしようとしやがったのでその度俺はその手を剣の鞘で叩いて叱っている。
"あかん、俺も腹が減ってきた"
"うまそうすぎる"
"ダゴ助また叩かれてて草。こりねえな"
"はよ食わせろ!!!!!!!"
"コラボカフェ明日からだったりしない?"
"まだ建物もできてないだろw"
"これ一番の宣伝だな"
"卑怯だぜこれは"
"汚いさすが田中きたない"
うーん、美味そうだ。
これは食べるのが楽しみだ。




