第6話 絡む者
「さすがです田中さん! あれを完璧に打ち返すなんて!」
「星乃こそいいサーブだった。腕が痺れたぞ」
"目と目で通じ合うな"
"相変わらず脳筋だな二人ともw"
"もうやだこの夫婦"
"田中は当然として、ゆいちゃんもやっぱりバケモンだなw"
俺は星乃を賛辞した後、思い切り跳躍する。
そして上空30メートル程度まで浮遊すると、落下してきたボールを思い切りスパイクする。
バゴン! という音と共にひしゃげながら吹き飛ぶボール。さて、星乃たちはこれを打ち返せるかな?
"どんだけ高くまで跳んでんだw"
"てか球の威力すごくない? なんか球が赤くなってるんだけど"
"ガチの隕石やん"
"一人でレシーブしてスパイクすな"
"ゴゴゴゴ……ってバレーでする音ちゃうぞ"
砂浜めがけて落下していくボール。
赤熱化しながら落ちてくるそれを迎えに行ったのは、凛だった。
「ここは私がやります……!」
凛は細い腕を前に出し、レシーブの構えを取る。
美しいフォームではあるが、傍目から見るとその腕で受け止められるのかと不安に見えてしまう。
"ええええ!?"
"さすがに無理じゃない?"
"凛ちゃん逃げて!"
"パワー系に正面から挑むのは無謀だって"
"レシーブはゆいちゃんに任せようよ!"
コメントも不安そうな声が目立つ。
しかしそれは凛を見くびりすぎだ。凛はその実力で討伐一課のエースにまで登り詰めた実力者。確かに純粋な腕力では俺や星乃には劣るが、それを補ってあまりある実力を持っている。
「付与・雷」
凛は魔法を発動し、全身に雷を帯びる。
静電気がパチパチと彼女を包み、髪がふわりと持ち上がる。
雷属性は人体を活性化させる効果があったはず。筋力が増強し、反射神経も格段に向上する。その上凛は前腕を魔素でコーティングし、その硬さを極限まで上げている。
魔法と魔素のコントロールを並行して行える者はそういない。
凛の魔法の腕と魔素のコントロール技術は世界でもトップクラスと言っていいだろう。
"凛ちゃんが光った!?"
"つよそう(小並感)"
"静電気バチバチなっててかっこいい"
"超サ◯ヤ人かな?"
"やっぱり戦闘民族やんけ!"
凛は腰を低くし腕をピンと伸ばすと、落下してくるボールを打ち返す。
「ふ……っ!」
バシィィィン!! という爆音と共に、凛は俺のスパイクを打ち返す。
その衝撃は凄まじく、凛は後ろに転がるが、上手く衝撃を逃しているので見た目ほどダメージはなさそうだ。腕がヒリヒリするくらいだろう。
「凛ちゃんナイスレシーブ! スパイクは任せて!」
星乃は再び跳躍すると、思い切りボールを叩く。
俺めがけて物凄い勢いで迫るボール。まさかこうも綺麗に打ち返してくるとはな、面白くなってきた。
"バレーの迫力じゃないぞこれww"
"三人とも日本代表になってくれ"
"そんなことになったら会場がぶっ壊れるぞw"
"どんどん地形が変わってく……"
"いいぞもっとやれ"
"凛ちゃんスパイクもうまいね"
"シャチケンを応援してるりりたそ可愛い"
"この破壊力に耐えてるボールくんが凄い"
"ボールくん「ここは任せろ」"
"ボールくんイケメンすぎる……"
"もうこれ今日のMVPだろ"
しばらくビーチバレーを楽しむ俺たち。
ダンジョンで体を動かすことはあるが、スポーツみたいな娯楽の運動は全然していなかったので楽しい。覚醒者が地上でスポーツなんてやったらめちゃくちゃになってしまうからな、中々スポーツを楽しめる機会はないのだ。
覚醒者向けのスポーツ施設なんかを作るのも人気が出るかもしれない。牧さんに頼めば頑丈なスポーツ器具を作ってくれるだろうしな。
「あ! すみません!」
などと考えながらプレーをしていると、星乃がレシーブをミスって海の方にボールを飛ばしてしまう。
着水したボールは海に浮かび揺れている。取りに行こうとしたが、それより早く星乃と凛がボールを取りに向かう。
「私たちが取ってきます! 田中さんは待っててください!」
「分かった。気をつけろよ」
ボールはそれほど遠くに行っていない。
まあ二人なら大丈夫だろう、俺は二人にボールを任せ砂浜で一人待つ。すると、
「きゃあ!?」
突然星乃の声がして、そちらを急いで見る。
すると二人は海から現れた巨大な触手のようなものに巻き付かれていた。その細長い触手のようなものには、吸盤のようなものがいくつもついている。もしかしてこれは……
『ブモモモッ!!』
海の中から現れたのは巨大なイカだった。
全長数十メートルはある、かなり大型のイカだ。俺はそれに見覚えがあった。
「こいつは皇帝イカじゃないか。珍しいな……」
巨大イカ型モンスター、皇帝イカ。
本来は中層より下に生息するモンスターだが、個体数が少なく出会うことは滅多にない。上層に迷い込んでしまったんだろうか。こんなとこで出会うなんてびっくりだ。
驚きはしたが皇帝イカはそれほど強いモンスターではない。二人なら問題ないと思ったが、
「なにこれ、ぬるぬるする……っ!」
「うぅ……気持ち悪いですね……」
星乃と凛は皇帝イカの分泌する粘液まみれになり、力が出せなくなってしまっていた。俺は出会ったら一瞬で斬っていたから知らなかったが、捕まるとあんな感じでぬるぬるまみれになってしまうのか。
"エッッッ!!!!!"
"イカァ! そこ代われ!"
"●REC"
"本日のスクショタイム"
"ふぅ……お前ら最低だな"
"ありがとう。それしか言う言葉が見つからない……"
二人のあられもない姿にコメント欄も大騒ぎだ。
いけない、二人を助けないと。俺は剣を手に取ると海の上を駆けて二人に近づく。




