第5話 田中、ビーチバレーをする
ビーチバレーをやりに砂浜にやってきた俺たち。
空は快晴、波も穏やか。遊ぶには絶好の環境だ。
「しかしなんで地下なのに太陽があるんだ? ダンジョンは不思議がいっぱいだな」
「あれはダンジョンの生み出した疑似太陽です。ダンジョンは様々な気候や環境を生み出す機能が備わっています。あの太陽は見た目こそ似ていますが、その大きさもエネルギーも実際の太陽よりずっと小さいはずです」
「そうなのか」
凛の解説に俺は素直に感心する。
ダンジョンは不思議だらけなのでその理由とかはいちいち考えていなかった。ダンジョンでは悩んだ奴から死んでいく、感覚で行動できるのも探索者として必要な才能の一つなのだ。
「あ、そうだ。田中さん、私ドローンも一応持ってきたんですけど、バレーの様子を配信しませんか? コラボカフェの宣伝にもなりますし」
「なるほど……それはいい考えかもな」
ここがどこのダンジョンか明かさなければ、中で配信していいと足立に言われている。
普通にバレーする様子なんかも新鮮だし、いいかもしれない。凛が配信に出るのも珍しいしきっとみんな喜ぶだろう。
「凛は配信に出ても大丈夫か?」
「はい。もちろんです」
凛の許しも出たので、俺たちは早速配信を始める準備をする。
星乃がドローンを飛ばし彼女のチャンネル「ゆいちゃんねる」で配信を開始すると、あっという間にたくさんの視聴者がやってくる。
"こんゆい〜"
"こんゆい!"
"お、突発配信か?"
"たすかる"
"告知ってなんだろう"
"ん? ビーチ?"
"ダンジョンかここ?"
ドローンにまず映されたのはキラキラ光るビーチ。
星乃はスマホを操作してドローンを動かし、俺たちを画面に映す。
「みなさんこんゆいです! 今日も来ていただきありがとうございます! なんと今日はゲストが二人来てくれてます! なんと、田中さんと凛ちゃんです!」
わー、と拍手をしながら星乃は俺たちを紹介してくれる。
あんまり他の人のチャンネルに出ることはないので、なんだか少し恥ずかしいな。
「どうも、田中誠です」
「絢川凛です。よろしくお願いします」
俺はぺこりと頭を下げ、凛は両手でピースをしながら挨拶をする。
すると物凄い勢いでコメントが流れ始める。
"うおおおおおお!"
"マ!? 豪華すぎんだろ!"
"凛ちゃんだ! 相変わらずビジュ良すぎる!"
"てか水着エッッすぎる"
"シャチケン!!!!"
"これが突発とかマジ? ご褒美すぎる"
"田中も水着になろう"
"ゆいちゃんの水着もかわいすぎる……ふう……"
"こんな天使を二人も嫁にしている奴がいるらしい"
"マジかよ田中最低だな"
俺と凛もいるからか、コメントの勢いが凄いな。
これは盛り上がりそうだ。
「今日は白狼ギルドのコラボカフェの下見に来ています! まだ場所は言えませんが、ここでやる予定なんですよ!」
"おお! 場所決まってたんだ!"
"めっちゃリゾート地じゃん"
"行きてえ"
"ここ本当にダンジョンの中なの?"
"楽しみすぎる"
コラボカフェについては好意的な声が多い。
楽しみにしてくれている人が多くて嬉しい。なんとしても成功させなくちゃいけないな。
「コラボカフェについて、場所以外のことはまだ話せませんが、せっかくビーチに来たので今日はビーチバレーを配信しようと思います! 楽しんでいってくださいね!」
"ビーチバレー!?"
"草"
"ダンジョンで球技する人、初めて見た"
"でも見たいw"
"そうか、ダンジョン配信って必ずしもモンスターと戦う必要はないのか"
"その発想はなかった"
"ボールはどこ?"
"すでにあるだろ。大きなボールが四つな"
"通報しました"
「星乃、バレーをやるのはいいけどボールはどうするんだ? 用意してあるのか?」
「はい! バッチリです!」
星乃はそう言って荷物の中からボールを取り出し、息をぷくっと入れて膨らます。
用意がいいな。
「でもそのボール大丈夫か? 俺たちが叩いたら割れるんじゃ」
「ご安心ください! これは黒須博士に作ってもらった特注品なんで! 私たちが叩いても滅多なことでは壊れないと言われました」
「私が頼みました」
えへん、と凛が胸を張る。
黒須博士とは魔導研究局の局長、黒須牧さんのことだ。
政府きっての変わり者である彼女だが、その頭脳は本物。日本がダンジョン分野において世界トップクラスに進んでいるのは彼女の功績だと言っていいだろう。
日々ダンジョンやモンスターについて研究し、遊べるような時間はないはずだが……こんなオモチャを作ってくれるなんて意外と暇なのか?
今度俺もなにか作ってもらえるか聞いてみよう。ドローンの性能を上げてほしいと思っていたところだ。
「よし、それじゃあバレーをやるとするか。俺は一人でいいから、星乃と凛でタッグを組んでくれ」
「本当に一人でいいんですか? 私たちが勝っちゃいますよ。ね、凛ちゃん」
「ええ、いくら先生であろうと勝負で手は抜けませんから」
二人は俺をからかうように挑発してくる。
上等だ。大人の大人げなさを見せてやろう。
"仲良いなあ"
"イチャイチャすんなww"
"イチャついてる田中からしか得られない栄養素がある"
"はよやれw"
"ビーチバレーとか今日は平和な配信になりそうやね"
"たしかに"
「じゃあ私からサーブしますね田中さん。えい……やっ!」
星乃はボールを上に放ると、その場で跳躍しボールを叩く。
いい体のしなりだ。体のバネがしっかり効いている。星乃の美しいフォームから放たれたサーブは一瞬にして音速を超え、俺のもとに物凄い勢いで飛んでくる。
"は?"
"え"
"え"
"っ!?"
"ぎゃあああ!"
"大砲かな?"
"なにこれ!?"
まるで隕石のような勢いで飛んでくるボール。普通の人間なら木っ端微塵になる破壊力だ。星乃も実力を上げたな。俺も負けていられない。
俺は腕を前に突き出し、レシーブの構えを取る。
「来い」
腕をぴんと伸ばし、膝の力を抜く。
顎を引いて視線は球に。球の落下する角度を観察し、腕の角度を調節。そして着弾の瞬間に足に力を入れ、腕を思い切り上に振り上げる。
「ふん……!」
バシィィィン!! という炸裂音と共に、ボールがレシーブされて空に打ち上がる。
レシーブした衝撃で砂浜には陥没穴が出現し、海は大きく揺れる。
"草"
"なにこれ"
"なにって……バレーボールをしているだけだが?"
"こんなバレーがあってたまるか!w"
"なんで球技やってるだけで津波が起きてるんですかね"
"平和な配信になりそうって言った奴は誰だ!"
"すまん、反省してる"
"これ現実のビーチじゃなくて良かったな……"




