第3話 田中、コラボカフェを考える
「しかしコラボカフェか……なにをしたらいいんだ」
配信を終え、俺は自宅のリビング部分でぐったりとソファに体を預ける。
視聴者はコラボカフェと聞いて楽しみにしていたが、正直俺はまだピンと来ていない。世間では『推し活』なるものが流行っているらしく、コラボカフェはそれと親和性が高いようだ。
しかし社畜生活を謳歌していた俺は当然そんな趣味を持ったことなく、コラボカフェにも行ったことはない。
なのでいまいちどんな感じなのかピンと来ていないのだ。
「場所取りやら建物のデザインやらは足立がやってくれてるけど、俺にも企画を出してほしいって言ってたからなあ……。みんな楽しみにしてるし、いい案を出したいけど」
いくら頭を捻っても良い案は出てこなかった。
まずい。せっかくの初オフラインイベントなのに微妙な感じで終わるのは嫌だ。
深刻な表情をしながら悩む俺。すると突然ソファの両隣りにドサッ! と誰かが座ってくる。
「どうしたんですか田中さん! 悩みがあるなら聞きますよ!」
「ええ、私たちにお任せください」
そう言って俺の顔を覗き込んできたのは星乃と凛だった。
大学生Dチューバー、星乃唯。
俺と出会った時はまだ無名の配信者だった彼女だが、現在は登録者3000万人超えの超有名Dチューバーだ。
強いだけでなく優れたルックスを持った彼女はテレビや雑誌に引っ張りだこであり、モデルとしての仕事もかなり来ているらしい。
ただ本人としてはそういう仕事は恥ずかしいらしくあまり受けていない。剣を振るってる方が難しいことを考えてなくて楽だとも言っていた。
芸能活動を抑えれば悪い虫も寄ってこれないから俺としても安心だ。まあそんなこと本人には言えないが。
そしてもう一人。銀色の綺麗な髪が特徴的な少女、絢川凛。
魔物対策省のエリート部隊、討伐一課で活躍する彼女もまた、出会った頃より有名になっていた。
公務員なので芸能活動こそしていないが、魔物対策省の顔としてポスターなどに起用され街中でもその顔を見る機会は多い。非公認ファンクラブもあるらしく、その会員数はかなり多いと聞く。
もちろん本業でも大活躍しており、その実力は討伐一課でもトップクラスらしい。天月以外では稽古についていけないというから驚きだ。次期討伐一課の課長は凛だという声も多いと言う。
星乃も凛もそれぞれの場所で大いに活躍している。
そんな凄い二人が俺の前では子どものように甘えてくるから驚きだ。実は全部夢でしたと言われても納得できる。
若くアンテナの感度もいい二人なら俺じゃ思いつかないことも思いつくはず。そう思った俺は二人に相談することにする。
「ああ、実はな……」
俺は二人にコラボカフェをすること、しかしその内容についていい案が出ないことなどを説明した。
二人は真剣な表情で俺の話を聞くと「なるほど」と呟く。
「コラボカフェなら友達の付き合いで何度か行ったことありますよ。詳しい人がフォロワーさんにいたはずなのでその人にも聞いてみましょうか?」
「ほんとか!? それは助かる……頼んでもいいか星乃」
「はい! お任せください!」
星乃は得意げな顔をしながら自分の胸を叩く。
た、頼もしすぎる。渡りに船とはこのことだ。俺が感心していると、凛が俺の袖をつかんでくいくいと引っ張ってくる。
「せ、先生。私も役に立てますよっ。コラボカフェは詳しくないですが、先生のグッズや先生をモチーフにしたメニューならいくらでも思い付きます。頼ってください」
「もちろん凛のことも頼りにしてるぞ。手伝ってもらってもいいか?」
「はい。お任せください」
凛は嬉しそうに胸を張る。
犬だったら尻尾をぶんぶん振っていただろう。表情が分かりづらいと言われる凛だが、良く見ればとても分かりやすい性格をしている。
「それじゃあ二人とも意見をもらっていいか? あと週末にコラボカフェの候補地を見にいくんだが、そっちも来てもらえるか?」
俺が尋ねると、二人は快くそれを了承してくれる。
コラボカフェの実施に向けて、心強い仲間が二人もできた。これならなんとかなりそうだな。




