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社畜剣聖、配信者になる 〜ブラックギルド会社員、うっかり会社用回線でS級モンスターを相手に無双するところを全国配信してしまう〜  作者: 熊乃げん骨
第十六章 田中、剣を直すってよ

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第5話 天月、魔王と死闘を繰り広げる

「はあああああっ!!」


 咆哮と共に、研ぎ澄まされた剣閃が走る。

 天月の放った斬撃は氷の兵士を両断し、戦闘不能にしていく。


 魔王ガングラティは氷の兵士を数十体召喚したが、それらの兵士はすでに氷の残骸と成り果て広間に転がっていた。

 それを見たガングラティは、王座に座りながら拍手をする。


「見事。人間もやるものだ。私に大きな口を叩くだけはある。特にお前はいいぞ」

 ガングラティは天月に視線を送る。

「お前ほどのいい女は、私の世界にもそうはいない。気に入った、めかけにしてやろう」


 ガングラティの言葉に嫌味といったものは感じられない。

 心の底から「嬉しいだろ?」と思っているようだ。

 なので当然それを受け取るものだと思っていたようだが、天月は剣先をガングラティに向けそれを拒絶する。


「もう一度言いますガングラティ。この塔を止めなさい」

「照れ隠しか? くどいぞ、素直になれ」

「この塔を止めなさい、ガングラティ!」

「……そうか」


 ガングラティは王座から立ち上がると、ゆっくり天月の方に歩き出す。

 その恐ろしい顔には苛立ちが滲んでいる。


「少し仕置きが必要なようだな。気の強い女は好きだが、身の程くらいはわきまえてもらわないとな」

「…………斬る!」


 天月は高速で地面をスライドする様に移動すると、ガングラティの首筋めがけ刀を振るう。しかしその刹那、両者の間に氷柱が出現し天月の刀を受け止める。


(この氷柱、硬い……!)


 普通の氷であれば受け止められるはずがない。天月はその氷が特別なものであることに気がつく。


「どうした女、終いか?」

「く……っ!!」


 天月は氷柱から刀身を離すと、再度斬りかかる。

 するとガングラティは天月の斬撃をなんと腕で受け止めて見せた。


「な……!?」

「魔族の力を舐めすぎだ。私たちは貴様ら人間とは格が違う。だからこそ、貴様らは支配・・されるべきなのだ」


 ガングラティが腕を振るい刀を跳ね除けると、凄まじい吹雪が巻き起こり天月を吹き飛ばす。


「く……っ!!」


 なんとか体勢を立て直し着地する天月。

 そんな彼女のもとにガングラティは近づいていく。


「いい腕をしているようだが、太刀筋が甘いな。くく、私に緊張しているのか? 優しくエスコートしてやるから安心すると良い」

「あんた天月ちゃんにキモいこと言ってんじゃないわよ!」


 すると天月と入れ替わるように雪がガングラティに向かって行く。

 天月とのやり取りを邪魔されたガングラティは面倒くさそうに雪を見る。


「……やかましいのが来たな。やれ」


 床から氷の兵隊が出現し、雪の行く手を阻む。

 すると雪はレイピアをしならせ、氷の兵隊に突撃する。


「邪魔よ! レイピアキック!」


 雪の渾身の蹴りが炸裂し、氷の兵隊が砕け散る。

 それを見てガングラティは「ほう」と感心したように呟く。


「ほう、貴様も中々やるではないか。顔が好みではないから妾にはしてやれんが、征服した暁には配下にしてやろう」

「はっ! 余計なお世話よ……っ!」


 雪はガングラティの腹部に思い切り蹴りを打ちこむ。

 ガン! という音と共にガングラティの体が揺れ、雪の足に確かな手応えが伝わる。


「からのぉ……レイピアパンチィァ!!」


 雪の剛腕がうねりを上げ、ガングラティの顔面に突き刺さる。雪はそのまま腕を振り抜き、ガングラティを吹き飛ばす。


「ふん。どんなもんよ!」


 広間の壁に激突するガングラティを見て、雪はそう言い放つ。

 倒すまではいかなかったとしても、かなりのダメージを与えることはできたはず。そう考える雪であったが、


「惜しいな……いい攻撃だが、これでは私は倒せぬ」


 ガングラティは平然とした表情で立ち上がる。

 ダメージを微塵も感じさせないその佇まいを見て、雪は表情を険しくする。


「うそ……っ?」

「どうやら全力を出せないようだな、原因は古傷か? 全盛期ならもう少しいい戦いができただろうに……残念だ」


 ガングラティはそう呟くと、一瞬で雪の眼の前に移動する。

 そのあまりの速さに雪の反応が遅れる。


「しま……っ」


 雪は急いで距離を取ろうとするが、それより早くガングラティの拳が放たれ、雪の胴体に命中する。


「があっ!?」


 その一撃をまともに食らった雪は勢いよく吹き飛び、地面を転がる。意識こそまだあるが、そのダメージは大きく地面に倒れたまま動けなくなってしまう。


「よくも雪さんを……!」

「私たちだって!!」


 するとちょうど氷の兵隊を倒し終わった討伐一課の職員たちがガングラティに斬りかかる。


「……お前らはつまらんな。少し黙っていろ」


 ガングラティは襲いかかってくる彼らをつまらなそうに一瞥すると、右腕を軽く振る。

 すると地面からいくつもの氷柱が生え、討伐一課の面々を一瞬にして氷の中に閉じ込めてしまう。


「なあ!?」

「動か、ない……!!」


 氷漬けとなった彼らの横を通り抜け、ガングラティは再び天月に近づいていく。

 彼が今この空間で興味があるのは、天月ただ一人であった。


「いい加減力の差も分かってきたことだろう。私のものになれ」

「ふざ、けるな……!」


 天月は刀を杖のようにして立ち上がる。

 体にはダメージが残っているが、その瞳から闘志は消えていない。


「いくら頑張っても無駄だ。どう転んでもこの国は凍りつき、滅びる運命にある。それは私が死んでも変わることはない」


 ガングラティは邪悪な笑みを浮かべ、そう告げる。


「この国が凍るですって……?」

「ああ。この塔の先端部には特殊な魔法が仕込まれている。その先端部が地面に突き刺さった瞬間その魔法は発動し、この地を凍土へと一瞬で変える。脆弱な人間がどれだけ生き残れるかな?」

「貴様……! 今すぐこの塔を止めなさい!」

「それは無理だ。一度起動したこの魔法を止めることは、私にもできない。ふふ、この塔を完全に破壊するか押し戻すでもしない限り、お前たちの国の崩壊は止められないということだ。残念だったな」


 小馬鹿にしたように言うガングラティ。

 それを聞いた天月は激昂し、刀を握りしめ駆け出す。


発射ストライクケラハ!!」

 天月の手から巨大な氷塊が出現し、勢いよくガングラティに命中する。

 しかし直撃したにもかかわらず、ガングラティは少しもダメージを受けた様子がなかった。


「私は氷の魔王だぞ? 氷魔法が効くわけもない。私たちの相性は最悪……いや、最高と言えるだろうな」

「黙れ!」


 天月は斬りかかるが、その一撃は再び腕で受け止められてしまう。

 魔法も剣技も通用しない。天月は窮地に立たされていた。


(くっ、いったいどうすれば奴に勝てるの……?)


「考えている余裕があるのか?」

「!?」


 ガングラティは空いている手に氷の剣を出現させると、それで天月に斬りかかる。

 天月は咄嗟に刀でその一撃を受け止めるが、ガングラティの膂力は凄まじく、後方に吹き飛ばされてしまう。


「が……っ!」


 地面を数度転がってから、天月は立ち上がる。

 今ここで倒れたら、何十、いや何百何千万の人間が犠牲になってしまう。二度と皇居大魔災の様な悲劇を起こしてはいけない。その一心で天月は立ち上がる。


「やれやれ……しつこい女は嫌われるぞ。いくら頑張っても無駄だと言うのに」


 ガングラティは自身の勝利を誇るように、両腕を広げて宣言する。

 しかしそれでも天月は諦めていなかった。するとそんな彼女の隣に雪が並び立つ。


「はあ、はあ……まだ私もやれるわよ。天月ちゃん一人に重荷を背負わせないわ」

「雪さん……ありがとうございます」


 二人は得物を構えると、ガングラティめがけて駆け出す。

 するとガングラティは二本の氷の剣を生成し、それを迎え撃つ。


「やれやれ、まだ実力差が分からんか。よかろう、ならば見せてやるとしようか……圧倒的な力の差というものを!」


 天月と雪は息の合ったコンビネーションでガングラティに攻撃を放つ。

 雪が正面から重い攻撃を繰り出し、その隙間を縫って天月の鋭い斬撃が差し込まれる。久しぶりに共闘するとは思えないほど、二人の息は合っていた。


 しかしガングラティはそれら全ての攻撃に対応できていた。時に氷の剣で弾き、時に硬い体で受け止め、二人の攻撃を無力化する。


「ははは! どうした、その程度か!」

「くっ……これならどうだ!」


 天月の研ぎ澄まされた剣閃が放たれ、ガングラティの首に命中する。そのままその首を両断しようと天月は刀に力を込めるが、ガングラティの青い皮膚は硬く、表面を傷つけるだけでそのより深くは刺さらなかった。


 普段の彼女であれば両断することも可能だったかもしれないが……自分がなんとかしないといけないという焦りが無用な力みを生み、剣を鈍らせてしまった。

 極限の戦闘においてそれは、命取りとなってしまう。


「惜しかったな。中々楽しめたぞ」


 ガングラティはそう笑うと体の前で印のようなものを組む。

 嫌な予感がした二人は距離を取ろうとするが、それより早くガングラティは動く。


「もっと楽しんでも良かったが……時間だ。終わりにするとしよう」


 ガングラティの体から膨大な魔素と、凍てつく冷気が放たれる。

 天月と雪は魔素で体を覆い防御するが、それでも体の芯まで凍りそうなほど、その冷気は冷たかった。


時間凍結タイムフリーズ


 ガングラティがそう呟いた瞬間、広間全体の時が停止・・する。

 全員の体がピクリとも動かなくなり、辺りを静寂が包み込む。


 そんな完全に停止したその空間で、ガングラティのみはいつも通り動き出す。


「これぞ氷魔法の極技。時すら凍結する地獄の冷気を、俺は魔法によって再現することができる。喜ぶがいい、貴様らには私がこの世界を征服する様子を特等席で見せてやろう」


 ガングラティはそう言って高笑いする。

 意識は残っている天月と雪は、必死に体を動かそうとするが完全に停止した体は全く動かない。


(これが氷魔法の極技……!? 私の使える魔法ものとは次元が違う、こんな技を持っていたなんて……!)


 目に悔しさを滲ませる天月。それを見たガングラティは楽しそうに笑みを浮かべる。


「くく、間も無く我が塔は降下を終了させ、この地に突き刺さる。その瞬間に全てが終わる。いや違うな……新しい時代が始まるのだ!」


 ガングラティは声高らかにそう宣言するが、その瞬間、唐突に塔がぐらりと揺れる。


「ぬっ!?」


 突然の揺れに体勢を崩すガングラティ。

 塔が地面に突き刺さったのかと思ったが……違う。塔はなぜか空中で止まってしまっていた。


「なんだ……? なにが起きている? お前らの仕業か!」


 慌てた様子のガングラティは時間凍結タイムフリーズを解除し、天月を問い詰める。

 すると体が動くようになった天月がくすりと笑う。


「残念……だったわねガングラティ。先にタイムアップを迎えたのは……貴方だったみたいね」

「どういうことだ、なにを知っている女ァ!」


 天月は確認せずとも分かっていた。

 こんな危機的状況を救ってくれる人物は一人しかいないと。


「助けに来てくれたのよ。貴方よりずっといい男が、ね」


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― 新着の感想 ―
リアル視聴者勢がおるなw
田中ぁ! どうせ時を止められても動けるんだろ田中ぁ!
ほほぅ…どんな登場の仕方をするのか凄く楽しみです!
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