第4話 田中、リリとコンビで戦う
魔王。
その言葉を聞いた時、天月はある人物のことを思い出した。
「天月ちゃん。魔王って……」
「はい。以前誠と戦った者もそう名乗っていました」
かつてダンジョンの最奥部に現れ、田中と激闘を演じた異世界の傑物、ルシフも自らを魔王と名乗っていた。
両者が名乗るその名前は、おそらく同じものだろう。
ならば両者は同じ世界から来て、同程度の実力を持っているということになる。
(そうなるとこの魔王も『EXランク』相当の実力を持っていることになる。私や雪さんはともかく、他の隊員では対処は困難ね……慎重に対話しないと)
天月は細心の注意を払ってコミュニケーションを続ける。
「魔王ガングラティ、今すぐこの建物を止めなさい。さもなければ貴方を討伐します」
「侵攻を止める? 馬鹿を言うな。私は征服王ガングラティ、蹂躙し、支配することのみが我が喜び! 私に狙いをつけられた時点で、この世界の運命はもう決まったのだ!」
そう言って高笑いするガングラティ。
天月は対話こそ可能だが、説得は不可能だと結論づける。
「……説得は不可能と判断。魔王ガングラティの討伐を開始する」
天月の言葉に応じ、雪と討伐一課の面々は武器を構える。
目の前の人物が強大な力を持っていることは、発せられる魔素の強さから見ても明らか。しかしこちらの方が人数的に優位な上、天月奏という圧倒的な強者も味方についている。
討伐一課の面々は険しい表情こそしているが、勝利を確信していた。
「作戦開始!」
天月がそう叫ぶと、一同は一斉に駆け出す。
一糸乱れぬ、統率された動き。ガングラティはそれを見て楽しそうに笑う。
「くく。勘違いしているようだが、私は一人ではない」
ガングラティはそう言うと指をパチリと鳴らす。
すると次の瞬間、広間の床から氷が生えてきて、それが人の形となっていく。
「私は王だぞ? 当然兵も持っている。まあ意識も我に支配された物言わぬ人形の兵ではあるが……これが存外よく働いてくれる」
氷の兵隊たちはガングラティを護るように立ちはだかる。
「ナメられたものね、こんなもので私たちを止められると思っているなんて。やっちゃいましょう天月ちゃん」
「はい。必ずここで倒します……!」
ここでガングラティたちを倒せなければ甚大な被害が出てしまう。天月たちは覚悟を決め、氷の兵隊に攻撃を仕掛けるのだった。
◇ ◇ ◇
「だいぶ奥まで来たな……まだアダマンタイトは見つからないのか?」
俺とリリは順調に磁鋼巣ダンジョンを進んでいた。
しかしそれでもまだ、アダマンタイトを見つけることはできなかった。
他の希少な鉱石は色々見つけたんだけど、アダマンタイトはさっぱりだ。さすが伝説の金属、そう簡単にはいかないか。
「リリ、疲れてないか?」
「うんー! よゆう、強いので」
「そっか、リリは強いな」
思わず近くにいたリリの頭をわしわしとなでてしまう。
ちょうどいい高さにあったからついやってしまった。なんだろう、子どもがいたらこんな感じなんだろうか。なんか和むな。
"ほのぼのしてて浄化される"
"りりちゃんめっちゃ嬉しそうに笑ってる"
"シャチケンとこういう風に触れ合いたくて人型になったんだもんな"
"なぜか泣いてる"
"シャチケンー! なんか変な建物が近づいて来てるから助けてぇ!"
"都心住みは大変だな"
"他人事で草"
そんなこんなでリリとお喋りしながら進んでいると、ついにダンジョンの最深部に着いてしまう。
そこには宝石の形をしたダンジョンコアが鎮座していた。
「一番奥まで着いちゃったか。でも今回はダンジョンコアに用はないんだよなあ。アダマンタイトはどこにあるんだ? 牧さんが計測をミスったとは考えづらいけど……」
ダンジョンコアのある部屋に入って、辺りを見渡す。
珍しそうな鉱石はあるけど、アダマンタイトらしき物はない。うーん、道中で見逃しただろうか? それとも隠し部屋にあったのか? こりゃ見つけるのに骨が折れそうだ。
「ん、あれ綺麗」
ダンジョンコアに目を奪われたリリが、とてとてとそれに近づいていく。
壊したら駄目だぞ、と声をかけようとしたその瞬間、突然空中からなにかが降ってくる。
「危ないリリ! 戻って来い!」
「え?」
降って来たなにかが地面に激突し、ズドン! と大きな音を出す。
俺はなんとかリリを抱え、その場を離れることに成功する。
「いったいなんだ……?」
落ちてきた黒い物は、ゆっくりと動き出す。
その物体には手足が生えていて、頭部もある。黒くて丸っこい形をしているがゴーレムのようだ。
「あんな形のゴーレム、見たことないな」
俺は迷宮解析機を使い、そのゴーレムらしきモンスターを解析する。
「お、情報が出た」
・アダマンゴーレム ランク:EXⅠ
アダマンタイトを核に持つゴーレム。
アダマンタイト程ではないが硬い体をしており、並の攻撃では傷一つつかない。
硬くて重い体を活かした攻撃を行う。
「名前はアダマンゴーレムか。なるほど、アダマンタイトを核としているゴーレムなのか……ん?」
アダマンタイトを核としている?
ってことは、
「あいつを倒せばアダマンタイトを持って帰れるのか……!」
どうやら道中で見逃していたわけじゃなかったみたいだ。とうとう見つけたぞアダマンタイト!
"とうとう見つけたな"
"悪い顔してるw"
"まさかボスモンスターが持っているとはね"
"苦労して来た甲斐があったね"
"でも硬そうだけど、倒せる?"
"剣ないからな"
"剣ないよぉ!"
『ゴォーッ!!』
アダマンゴーレムは拳をぶつけ合わせながら叫ぶ。
やる気満々って感じだ。
奇遇だな、こっちも戦る気満々だ。
「リリ! あいつを倒せば目的達成だ! サポート頼めるか!」
「とーぜん! リリを頼るべき!」
リリは髪の毛を逆立たせ、威嚇しながら答える。
頼もしい限りだ。
『ゴーッ!!』
ゴーレムは両手を広げ、俺たちに襲いかかってくる。
その太い手で俺たちを握り潰そうとしているんだろう。逆にこっちが握りつぶしてやろうかと思っていると、リリがゴーレムの正面に立ちはだかる。
「えい! 溶けるべき!」
そう言うとリリは口から液体を「ぴゅー!」と吹き出す。
その液体がかかったゴーレムの体はシュウウ……! と煙を上げる。あれはショゴスの使っていた酸か。
体は硬くても目の部分は脆いみたいで、ゴーレムは顔を押さえ苦しそうにもがく。
"えっぐ"
"リリちゃん可愛いけどちゃんとショゴスだな"
"わいも溶かして!"
"目が! 目があぁぁ!"
"戦闘センスはシャチケン譲りやね"
リリが作ってくれたチャンス、無駄にはしない。
ゴーレムが目を押さえている間に俺は接近し、その胴体を蹴り上げる。
「せい!」
『ゴウッ!?』
俺の蹴りが当たったことで、メコ! と胴体が陥没し、その体が宙に浮く。
ふむ、これくらいじゃ壊れないか。流石に硬いな。
もっと力を込めないと駄目か……と思っていると、ゴーレムの飛んだ先に回り込むようにリリが跳躍する。
「たなか、行くよ!」
「なるほど、そういうことか……来い!」
リリの意図を汲んだ俺が頷くと、リリは宙を舞うゴーレムを真下に蹴り飛ばす。
すると必然ゴーレムは俺の方に落下してくることになる。ゴーレムは重いので、その落下速度はかなり速い。
つまり……今攻撃すればカウンターとなり、そのダメージはさっきより跳ね上がる。
「ふんっ……っ!」
『ゴオゥッ!?』
俺の綺麗な垂直蹴りが、ゴーレムのボディに炸裂する。
すると衝撃と共にアダマンゴーレムの体は爆散し、破片が周囲に飛び散る。
"うおおお!!"
"コンビネーション神過ぎるw"
"シャチケン最強! シャチケン最強!"
"りりたそ最強! りりたそ最強!"
"あの一瞬でなんで意図汲めるんだw"
"新しい戦闘民族の誕生だな"
"凄え、けど早く戻って来てくれ!"
"うおお塔がもう落ちてくるwww"
"都内は家賃高いし塔落ちてくるし大変だな"
"でも都内には田中いるから……"
"その田中が留守なんだよなあ"
粉砕し、散らばるゴーレムの体。その頭部は地面を転がり『ゴウ……』と少しだけ喋ったが、やがて完全に沈黙する。どうやら再生力は低いみたいだな。
復活することはなさそうだ。俺は「ふう」と一息つく。すると、
「たなか!」
「おっ!?」
急にリリが飛びついて来たので、それを受け止める。
かなりの速さとスピードのタックルだ。鍛えたら優秀な探索者になるぞ。
「リリ、役に立った?」
「もちろんだ。ありがとうな」
俺はリリに礼を言い頭をなでた後、アダマンタイトを探す。
アダマンゴーレムの破片が散らばっていて、どれがお目当てのアダマンタイトなのか分かりづらい。
"アダマンタイトどれだw"
"あれじゃない?"
"いやあれだよ"
"あれで分かるか!"
"てか田中は今コメ見れんぞw"
「たなか、これー?」
探していると、リリがなにやら黒くて重そうな物体を持ってくる。
この黒さと独特の光沢……俺の剣と同じだ。間違いない、これが伝説の金属アダマンタイトだ。
「ナイスだリリ。お手柄だぞ」
「むふー。リリは凄いので、とうぜん」
俺はリリを褒めちぎった後、アダマンタイトを受け取る。
ようやく見つけることができた。後はこれを剣に乗せ、ハンマーで打ち込めば修理は完了する。
なかなか苦労したが、これで今回の探索も終わりだな。
大きなトラブルもなく終わりそうで良かった。
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