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社畜剣聖、配信者になる 〜ブラックギルド会社員、うっかり会社用回線でS級モンスターを相手に無双するところを全国配信してしまう〜  作者: 熊乃げん骨
第十五章 田中、折ったってよ

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第9話 田中、カニを茹でる

 俺は異次元ビジネスバッグの中から大きな鍋を取り出し、水を張り、それを火にかける。

 そして沸騰したタイミングでクリスタルキャンサーの脚を殻ごと投入する。


 するとキラキラ光る甲殻がほんのり赤くなっていく。

 普通のカニも赤くなるが、クリスタルキャンサーの殻は元々宝石のような見た目をしているので、まるでルビーみたいだ。


"めっちゃ綺麗だな"

"殻でいいからくれない?"

"これ絶対美味いやつだ"

"なんでこんな美味そうに見えるんだ"

"腹減ってきた"


「……ん?」


 手が空いたのでコメントを確認すると、俺はあることに気がつく。

 コメントが明らかにカクついていて、上手く表示されない。

 「腹減ってきた」というコメントが「腹減――きた」みたいになってちゃんと表示されない。

 電波が悪いのかと、スマホで電波状況を確認してみると、通信速度が乱高下を繰り返していた。これじゃカクついて当然だ。


「どうやら通信状況が悪いようで、コメントがあまり読めません。みなさんにはちゃんと配信できてますでしょうか?」


"そうなんだ"

"ちゃんと見えてるよ!"

"問題なし"

"見れなくなったらやだな"

"ダンジョン配信で電波問題って珍しいな"


 俺のスマホ上ではコメントが半分くらい表示されないが、読める半分を見た感じ配信はちゃんとできているみたいだ。どうやらこっちから送る分にはいいが、外からこっちに送られる電波に異常が発生しているみたいだ。


 考えられる原因といえば、このダンジョンの磁場の影響だ。

 ダンジョン内に満ちている魔素は、電波を仲介し外に運んでくれる効果を持っている。このダンジョンもそれは同じだが、特殊な磁場がその役割を邪魔しているんだろう。


 下層までは問題なかったみたいだが、ここはもう深層。磁場の影響も強くなり、それが外から来る電波を妨害してしまっているんだ。


「上に上がらないと電波が戻らないと思うので、このまま続けます。コメントを読めなくなってしまうと思いますが、ご了承ください」


"りょ"

"はーい"

"全然ええで"

"どうせいつも好き勝手コメントしてるしw"

"今なら田中にセクハラコメしてもええんか!?"

"通報しました"

"速攻で足立ィにBANされるぞw"


 コメントが見えないとちゃんと楽しんでもらえるか分からないが、まあ深層まで来たからいいだろう。深層の配信は少ないから、ここが映っているだけでも一定の需要はある。


 今の最優先事項はアダマンタイトを見つけること。

 視聴者には申し訳ないがコメントは見ずに進むとしよう。


「……お、そろそろ火が通ったかな」


 クリスタルキャンサーの脚が綺麗に茹で上がったのを見て、俺はぐつぐつと沸騰する鍋の中に手を突っ込んで脚を取り出す。

 そして「ふん」と関節部分をへし折って、殻を外す。

 すると殻の中からキラキラと輝くぷりっぷりの身が姿を現す。


「うお、流石に美味そうだな……」


"あああああうまそう"

"これ今までで一番かも"

"飯テロすぎるw"

"こんなにデカいカニいたら腹いっぱいカニ食えるのに……"

"身も宝石みたいに綺麗だな"

"お腹と背中がくっつきました。訴訟"

"いいなあ"


 クリスタルキャンサーの身からはほんのりと湯気が上がっている。

 俺は素材の味を楽しむために味付けは塩だけにとどめ、そのデカいカニ脚に思い切りかぶりつく。


「いただきます。がぶっ……ん、美味んまっ!!」


 ぷりっぷりの身をかじると、強烈なうまみとほんのりとした甘みが口の中に溢れる。上品で臭みのない磯の匂いが鼻を抜け、海そのものを食べているような錯覚を覚える。

 栄養も魔素も豊富で、食べる度に体が喜び力がみなぎるのが分かる。


「これはいくらでも食えるな。もっと食べよう」


"羨ましい羨ましい羨ましい"

"俺も探索者になるわ"

"探索者になってもクリスタルキャンサーなんて会えないぞw"

"レアモンスだからね"

"これ食えるまで死ねんわ"

"コラボカフェで売ってくれ!"

"深層モンスターが店で食えるようになるかw"


 夢中になってガツガツと食っていると、ポケットの中がごそごそと動く。


「り……?」


 そして胸ポケットの中からリリが顔を出す。

 珍しい、最近は昼間はずっと寝てるんだがな。


"りりたそ!"

"かわいいねえ"

"生リリちゃん助かる"

"リリたそクンカクンカスーハースーハー"

"いあ! いあ!(脳が理解を拒む文字列)"

"ふんぐるいふんぐるい(興奮が伝わる文字に似たなにか)"

"邪神ニキも喜んどる"

"ただのオタクで草"


 リリは俺の手の平にぴょんと飛び乗ると、クリスタルキャンサーをじっと見る。

 もしかして……


「これ食べたいのか?」

「り! おなか、すいた」

「そうか。それじゃあ茹でたてのをあげるな」


 鍋から次のカニ脚を取り出し、殻を外しリリに差し出す。

 するとリリの体がびにょんと伸びて、大きな口が開く。そしてその太い脚をそのまま丸呑みしてしまう。


"うおいい食いっぷり"

"美味そうに食うなあw"

"りりちゃんに丸呑みされたい人生だった"

"早く元気になってね"


「り! おいしい、もっと!」

「そうかそうか。ほら、もっと食え」


 久々に元気なリリを見て、俺はどんどんカニを食べさせる。

 余程腹が減っていたのか、リリは自分よりずっと大きいカニをほとんど食べてしまう。

 そして食べる度、リリの体に力が宿っていくのを感じる。そしてついにリリの体に無視できない異変が生じる。


"あれ? リリちゃんの体、光ってない?"

"ほんとだ"

"ウアァァァヒカッタァァァァァ!!"

"なにこれガチで進化するの?"

"BBBBBBB"

"進化キャンセルすんなw"


「どうしたんだリリ? 大丈夫か?」

「うんー、やっとちから、たまっただけ」

「力? 貯まった?」


 なんのことだと首を傾げる。

 もしかして今まで休眠状態だったのは力を貯めるためだったのか?


 それなら休眠していた意味が分かる。だがそうだとして、なんでそんなことをする必要があったんだ?


「りりり……できそう。やるる……」


 リリの体が一層強く光る。

 そして俺の手の平からぴょんと飛び降りると、その体をぐにょぐにょと変形させながら大きくなる。


「どう。これでリリも、にんげん」

「……まじかよ」


 変形が終わり光も収まると、なんとそこには一人の人間がいた。

 褐色で黒髪の女の子だ。見た目は完全に小学生くらいの女の子だが、その髪にはリリの目玉らしきものがくっついているし、体から発せられている魔素は完全にリリのものだ。


 どうやらリリは人間の姿になれるようになったみたいだ。

 この為に今まで力を貯めていたのか。


「むふー。これでリリも戦える。たなかは頼るべき」

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― 新着の感想 ―
進化の可能性は予想してたが人化は予想出来てなかった(゜o゜; でも待て! これはリリが嫁候補に上がるんじゃ? つまり、某エルフを超え第4夫人か♪~(´ε`)
モンスター娘の誕生だ!!祝え!!www
そっち方面に進化したリリちゃん→隠し子!?と、田中嫁ズは慌てないはず。 田中さんは独身時代、邪神様から「リリちゃんのパパ」に認定されてるから。 慌てるとしたら、服とか部屋かな~
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