第5話 天月、忙しい日々を送る
「……そう。じゃあ明日からそのダンジョンに行くのね」
俺の幼馴染みにして、魔物対策省討伐一課の課長を務める天月奏はそう呟く。
討伐一課は危険なモンスターとの戦闘が主な仕事だ。最近はダンジョンの出現頻度も上がっているので、必然的に天月の仕事量も増えている。
こうして一緒に晩飯を食える機会も減っている。
「ああ、なんでも最近見つかって、初探索もまだされていないダンジョンらしいんだ。危険な可能性はあるけど、行ってみる価値はあると思う」
「……そうだったの。調査が追いついてなくてごめんなさい」
「あ、ご、ごめん。そういうつもりはなかったんだ」
初探索は通常政府主導で行われる。この前の合同探索のようなことは稀だ。
都内のダンジョンで初探索がまだのダンジョンがあるということは、政府の調査がダンジョンの発生速度に追いついていないことを意味する。
責任感が人一倍強い天月が、責任を感じてしまうのは当然か。迂闊だったな。
「あまり気負い過ぎないでくれ。俺もできる限り協力するから。働き過ぎると本当に倒れるぞ? 労働は思考能力を奪うから、気づかない内に引き返せないほどボロボロになるんだ」
「あなたが言うと説得力あるわね……」
天月に白い目で見られる。
まあ昔の俺は明らかに働き過ぎだったからな……。自由の喜びを知った今、あんな風に働くことはできない。
「心配してくれてありがとう、気をつけるわ。でも今は色々問題が起きていてね……簡単に休むことはできないのよ」
「問題?」
俺は自分で作ったパスタを頬張りながら尋ねる。
最近は料理動画を見るのにもハマっている。調味料や調理道具にも凝り出して、趣味の一つになっている。
ウチにはよく食べる奴がたくさんいるので、すぐに完食してくれて助かる。
「最近、都内の魔素濃度が上昇気味なの。非覚醒者が体調を崩すレベルじゃないけど、過去数年と比較すると異常な数値よ」
「そうなのか。そりゃまた物騒だな……」
ダンジョン外の魔素濃度上昇は、ダンジョンが現れる前兆だ。
皇居直下ダンジョンが誕生した時も、都内の魔素濃度が大きく上昇した。今回もそういった大型のダンジョンが発生する可能性は高いだろう。
「つまり大型ダンジョンが発生することへの警戒もしなくちゃいけないってことか。そんなに忙しくて本当に大丈夫か?」
「問題ないわ。私はあなたや凛がいるこの場所を守るために戦うと決めた。二度と皇居大魔災のようなことは起こさせない……そのためなら私は、なんだってやる」
そう語る天月の目には、強い意志を感じた。
俺たちのことをそこまで想ってくれるのはもちろん嬉しいけど、その危うさに心配にもなってしまう。
もっと肩の力を抜いた方がいいとは思うが……言って聞いてくれる奴でもない。無茶をし過ぎないように、こっそりサポートするとしよう。
「そうだ、最近マッサージの動画も見てるんだ。ちょっと試させてくれないか?」
「え? 気を遣ってくれてるならだいじょ……」
「いいからいいから。ほら、肩がカチカチじゃないか」
「んっ……もう、強引なんだから。分かったわ、それじゃあ少し、お願いしようかしら」
困ったようにしながらも、天月の声色はどこか嬉しそうだ。
俺たちはお互いの肩を揉みながら他愛のない話をし、平和な時間を過ごしたのだった。




