第11話 田中、懐かれる
その後の顛末。
結局カグツチを倒した後、俺たちがモンスターに襲われることはなかった。
雪さんが常にモンスターに気を配ってくれたおかげだろう。
あの人の圧は強いから、並のモンスターでは襲う勇気も湧いてこない。
上層に上がると救助に来ていた魔対省の職員とも合流できて、そこからはトントン拍子に脱出できた。
みんな多かれ少なかれ怪我はしていたが、誰一人欠けることなく生還することができた。
転移された時はもう駄目だと思った人も多いようで、脱出した瞬間泣き出す探索者も多かった。
一応中の様子は配信していたので魔対省も把握しているはずだが、中で起きたことを報告したりしていたら、ホテルに戻れたのは夜が更けてからだった。
その頃には星乃も目を覚まし、ようやく落ち着けると思っていたのだが――――
「「「「「すみませんでした!」」」」」
「……なんだこれは」
俺の目の前では二十人ほどの人間が地面に膝をつき頭を下げている。
いわゆる土下座ってやつだ。大人がこの人数で土下座しているとなんか怖いな。
「いったいなんなんだ。いきなり部屋に来たと思ったら。説明してくれ」
そう言うと先頭で土下座をしていた人物が顔を上げる。
彼の名前は三上修二。鋼鉄の牡鹿の探索者だ。
他の土下座をしている面々も全員鋼鉄の牡鹿の探索者だ。彼らは急に俺の部屋にやって来て、土下座をしてきたのだ。
俺だけじゃなく星乃も「え? え?」と困惑している。
「田中さんと星乃さんには大変ご迷惑をおかけしました。謝罪するのは当然です。あのダンジョンで僕たちは学んだんです、自分たちがいかに幼く、未熟だったのかを」
三上の言葉に他の探索者たちも頷く。
どうやら彼らは星乃に助けられ、それに感銘を受けて改心したらしい。突然強敵だらけのところに転移して、そこを救われたのだから感じるものがあって当然か。
「僕たちがどれだけ勝手なことをして迷惑をかけたのか、今は自覚があります。どのようなことをしてでも償うので、なんでもおっしゃってください」
「いいよ別に。早く帰って寝ろ」
「分かりました。では帰って寝……って、え?」
三上は俺の言ったことが信じられないといった顔をする。
「『いい』とはどういうことですか!? 僕たちのせいであなた方は迷惑を被ったはずですよね!?」
「まあダンジョン潜ってればあれくらいのトラブルはあるからな。それに別に恩を着せたくて助けたわけでもないしな」
「そうですね。私も私にできることを頑張っただけですので。別にみなさんのことを怒ってたりはしませんよ」
俺の言葉に星乃も同意する。
こいつらが反省してないなら話は別だが、今のこいつらはちゃんと反省し、改善する意思がある。だったら別に、これ以上償う必要はない。
「し、しかしそれでは僕たちの気が……」
だが三上は納得できないようで食い下がってくる。
どうしたもんかと考えた俺は、いい案を思いつく。
「だったら今度ダンジョンで困っている人がいたら助けてやってくれ。それで十分だ」
「え……そんなことでいいんですか?」
「ああ」
三上は引っかかった様子ではあるが、「分かりました。そう言うのであれば」とひとまず納得してくれる。
いつかこいつも言ったことの意味を理解してくれる日が来るだろう。
「それではこの話はここで終わらせていただきます」
「ああ、そろそろ帰って……」
「ですので次の話に入らせていただきます」
「え?」
もう夜も遅いので風呂入って寝たいんだが、まだ話があるらしい。いったいなんの話があるんだ?
「田中さん……いえ、師匠! どうか僕の師匠になってください!」
「は、はあ? なにを言ってるんだ急に」
三上の突然の言葉に困惑する俺。
そんな俺をよそに三上は語り始める。
「ダンジョンで見たあなたの強さは素晴らしかった。あの容赦ない太刀筋と神速の剣技は、昔僕を救ってくれた方によく似ている……それはまさに僕の理想の姿と言ってもいい! 僕は確信しました、あなたに師事すれば、僕は理想に近づけると! 下働きでも残業でもなんでもするので、僕を弟子にしてください!」
「ち、近い! 離れろ!」
ぐいぐいと近づいてくる三上を押しのける。
最初に出会った時とキャラが変わりすぎだ、どうしてこうなった。
「おい! 誰かこの暴走しているのを連れて帰ってくれないか!?」
この部屋には鋼鉄の牡鹿の探索者が揃っている。
誰かまともな奴に三上を引き取ってもらおうとするが、
「星乃さん……いえ、リーダー! 今後も私たちのリーダーを続けていただけませんか!?」
「え!? それはダンジョンを脱出するまでの間って話じゃ……」
「そういう話でしたが、私たちのリーダーはもう、星乃さんしか考えられないんです! どうか、どうか鋼鉄の牡鹿に来てください! お願いしますぅ!」
「「「「お願いしますっ!」」」」
「え!? え!?」
再び土下座をかまされ、戸惑う星乃。
こっちもこっちで変な奴らに好かれてしまってるな。
結局、こいつらは俺が無理やり部屋から追い出すまでいついていた。
まったく、おかげで風呂に入る時間が減ってしまったじゃないか。




